どんどん俺の理想から
かけ離れた作品になっていく
『ナチュラルデイズ』。
プロットに俺の想いを盛り込もうとしても
編集者にチェックされ、
残されるのはほんのわずかだけ。
こんなの俺の作品じゃない。
俺が描きたかった世界じゃない。
スマホと財布だけをもって家を飛び出した。
行く当てなんてなかったけど、
家にいたくはなかった。
連載の〆切は迫っていたが、
こんなんじゃ続きなんて描けるはずもない。
とにかく逃げ出したくて、
俺は目的もなく歩き続けていた。
すれ違う人たちが楽しそうに話しているのを見て、
舌打ちがこぼれそうになる。
なんでみんな、そんなに楽しそうなんだ。
普通に、ありのままに生きてて、
そんな風に笑えるもんなのか?
世界から自分の全てが否定されているような気がして、
息がつまる。
お前が間違ってるから、こうなった。
お前が間違ってるから、ひとりぼっちなんだ。
逃げ出してきたはずなのに、
俺の頭を巡るのは『ナチュラルデイズ』の世界だった。
俺と同じはずなのに受け入れられる真斗。
物語を盛り上げるために用意された
胸くそ悪い展開。
下手にデビューしたせいで、
それが許されなくなってしまった。
面白くなくちゃ。
そのためなら、不幸だって描かなくちゃ。
だって平気だろ?
所詮紙の上のキャラなんだから。
そう言われているような気がして本当に嫌だった。
気づけば本屋にいた。
小説や雑誌が並ぶ棚を通り過ぎて
たどり着いたのは、漫画コーナーだ。
平積みされている漫画たちは、
色んな客に取られていく。
デビューして、
WEB連載して、
人気になって書籍化して、
誰かに買われていく。
それをこの目で見たいと思っていた。
そうすれば、
俺がこの世界に認められたことになると思っていた。
本屋に来たのは間違いだった。
早くここから出よう。
そう思ったとき。
くすくす笑う声が聞こえてきた。
それと共に誰かを馬鹿にするような会話も。
振り向けば、
棚に隠れるようにして立つ男子高校生グループ。
そして彼らの視線の先には、
同じ制服を着た一人の男子高校生がいた。
その光景を見て、すぐにピンときた。
一人で棚の前に立っていた男子高校生は、
躊躇った末に一冊の漫画を手に取った。
そして、それをそのまま
学生カバンの中にしまおうとする。
万引きをしようとするそいつの腕を掴めば、
驚いた顔から一転、真っ青になった。
そうだよ。
お前がやろうとしてんのは犯罪行為だ。
いじめられてたとしても、
「やらない」って突っぱねられる強さがない
お前が悪い。
万引きをそそのかしていた奴らも
一緒に付き出そうとしたその時、
捕まえていた奴が逃げ出した。
最初はただ逃がさないように
追いかけているだけだった。
だけど、途中から少しだけ焦りを感じ始めた。
だって、そいつが向かっている先は大通り。
そして、そいつに向かって
突っ込んでくるトラック。
明らかに、スピードを落とさず
その高校生に向かって走っている。
追いかけたせいで人が死ぬとか
目覚めが悪すぎる。
俺はめいっぱい腕を伸ばして、
その高校生の腕を掴んだ。
ジジッ、と
ノイズがかかったような音が聞こえて目を開ける。
目の前に広がっていたのは、
学校の職員室のような場所。
自分の母校じゃない。
だけど、俺はこの場所を知ってる。
ここは俺が描いた『ナチュラルデイズ』の世界だ。
目の前で真斗が話している。
夢……いや、転生ってやつか?
自分で描いた漫画の世界に?
壊してしまおう。
これが夢でも何でも、構わない。
俺の手で、
『ナチュラルデイズ』を壊してやる。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。