俺は……セミの幼虫ことノコノコ……だったはずだが?
つい先程謎のノコノコ食マンズ共から酷い目に合わされてた俺……と猫と友達。
しかし、俺が次に目を開けた瞬間、見知らぬ場所にいた。
床は雲のような模様で、周りは空のような透き通った水色が全体で覆われている。
そこにぽつんと、如何にもな白髭のおじいさんがいた。
白髭のおじいさんは手に持ってる杖のような物で俺をバカスカと殴ってきた。
一体何が起こってるんだ!?
なぜ俺は殴られてるんだ!?
俺の疑問を答えるかのようにおじいさんは次第に愚痴のように漏らし始めた。
ふう、ふう、とおじいさんは息を吐かながらどうにか落ち着いたらしく、その場でドシンっ!と音を経てながら座り込んだ。
俺はやっと理不尽な暴力から解放されホッと息を着くが、向こうは怒りながらこう続けてきた。
……?
いまいち話が見えてこない。
つまり何が良いんだろうかこのおじいさんは……。
俺がそんな……300億も死ぬようなハメを……え、てか300億?
死にすぎじゃない?ていうか俺そんな死んでたの?てか、生き返ったってどゆこと?
俺はひどく混乱した。
しかしおじいさん(……いや、この感じはもう……明らかに神様っぽいから神様でいいのだろうか?)は混乱する俺を置いて続ける。
あれはそういうことか……。
俺はてっきり神様が語りかけてきた……いや、アレは忠告か?忠告しにきたのかとおもったけど、俺だったのか……。
神様は続けて話す。
ならノコチーは……俺が殺したも当然か。
ひどいことをしたな、あいつも俺に出会ってなかったら普通のセミとして生きてたはずなのに。
神様はゴホンッと喉を唸らし、改まって俺に向き直り話を始めた。
とんでもないな。
本当。
お互いが来世で満足の生き方をする。
これが、例えば俺は彼女と会えば満足した、と仮定するとこの繰り返しから解放されるわけだが……。
仮にあの猫が彼女なら、それは叶ったと言えるのだろうか?
俺はただ、会うだけで満足するのだろうか?
違うだろうな。
会うだけなら何億も繰り返す必要もないだろうし、じゃあ一体なにか?
遊びたい?何処かに行きたい?
恐らくどちらかだ。
それを叶える為に俺は何回も死んで生き返ってを繰り返したのだろう。
俺は開いた口が塞がらなかった。
__まじで?
約20年×約300億だから……単純に計算すると、え、約6千億?
は??
途方もない数すぎて、逆に何がどうなってるのか……俺には想像もつかない。
すると神様はまた、俺を杖で……今度は、頭をボコンと軽く一回たたいた。
その声はなぜかスッと頭に入ってきて、まるで親が子を叱る時のそれと似ていた。
どうする、か。
そんな事を聞いて、わかっているくせに……この神様も嫌なやつだな。
いや、いいやつか?
でもやっぱりセミに転生させたのは気に食わないから嫌だな!!
そう言うと、神様は角の方を指指す。
ああ、そこ行けってことね。
ありがたい。
あと耳を塞いでほしいけど、まあいいや。
俺は神様に従って、そこにトボトボ歩いて座りこむ。
*
俺は名前を忘れた前世人間の男。
現在とんでもない理不尽に巻き込まれ中。
気持ちの整理をするとなると、やはりまずすべきことは一つ。
俺は声を上げて泣いた。
泣きに泣いた。
涙が頬から伝って雲みたいな地面に落ちるくらい泣いた。
神様の部屋(?)で真実を知るというイベントに対して、かなりショックを受けた。
一番ショックだったのが、やはり彼女。
俺がヘマをしたせいで、想像よりも遥かに苦しい状態に陥ってたのだ。
無限地獄といっても過言じゃない。
その状況に追い込んだのも俺だ。
どんな気分なんだろうな。
何度も何度も探したのに俺が先に死ぬせいで、結局会えず仕舞いで次はあそこを探そうとか次は遠くに行ってもーとか、色々探してくれたんだろうな。
よくよく考えるとあんなに身体中がぼろぼろだったのも遠く離れた場所から俺のいる公園まで頑張って特定して来たんだろうな。
そんで……せっかく会えたのに、俺がやらかしてまた最初から、か。
胸糞悪すぎる。
俺が他人ならまず俺を批難するだろうな。
俺が彼女なら、殴ってるだろうな。
それを、彼女は……。
ごめんね、と。
むしろ土下座案件だな。
それはさておき……
多大な情報量のせいで結構なダメージを受けたが……いつまでも泣き続けるわけにはいかない。
流す涙を手で強引に拭って、再びいざ神様の元へ……。
*
神様はずっっと俺を見ている。
真顔で、両手で杖を持って、如何にもな貫禄を出しながら俺を待っている。
俺は速やかに神様の元へと駆け寄る。
神様の問に俺は答えた。
無意識に頭を下げた。
しかし神樣の予想外の答えに俺は度肝を抜かれる。
何があと一回なんだ?
いや、分かってるけど、頭が理解を拒んでいる。
まさか、嘘だよな?
なんで今になって、あと一回なんだ?
深くため息を付いてしまった。
本来ならため息を付くべきは神様の方である。
しかし付かずに居られず、このやりきれない気持ちをどうしようかと悩んでいる。
勿論転生は続ける。
しかし、次でラスト。
せめて次は別の生物になりたいです!はもう通用しないことがわかったので、どうすればいいのか悩んでいた。
何か抜け道はないのか、それともう一つ転生したら何をすべきか。
俺は一呼吸を置いてから、無理難題を神様に伝えた。
覚悟を決めた。
俺はもう一度セミとして転生する。
最後のセミ生をどうするか、俺は今一度よく考えることにした。
復讐か、それとも彼女か。
復讐するのはあの二人の人間。
内容はこれから考えるとして、全力で奴らに復讐をする。
そして……今回彼女と出会えることがこの先ある、という事を把握したので、あらゆる死亡要素を回避していき彼女と残り少ない時間を過ごす。
この二択に限られる。
今一度、よーーーく考えるんだ、俺。
どっちが幸せで、どっちが満足できて、どっちが成功しやすいのか。
神様の厳かな眼差しに俺は背筋をのばして、はっきりと答えた……。
【次回10話】
アンケート
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彼女と平穏に過ごす
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。