世界最大といわれる都市。
そこに足を踏み入れた初兎は、長旅で疲れた体を伸ばし辺りを見渡した。
田舎にある小さな村出身の初兎にとって、大きな都市というのは興味深いもので溢れていた。
でっかい街でも兎とかはいるんや……と謎に関心し、しばしその兎を眺める。
道のど真ん中で。
そんな悪い意味で目立つ初兎に、1つの声がかかった。
面白いものを見つけた、とでもいうような声色に、初兎は少しむっとしながら声のした方を向く。
顔をしかめた初兎に気づいたのか、小さな露店の中で彼は笑いながら言った。
ないこと名乗る桃色の青年は、先程とは打って変わって優しげに目を細める。
コミュ力の高いないこにびくびくし、人見知りを発動する初兎。
ないこが指さす方向を見ると、王城が見え、その前に大きな噴水のある広場があった。
親切なメカニックに礼を言い、教えてもらった方へと歩き出す。
全てのものに驚きながらギルドを探す。
その途中で、噴水の傍でうたう吟遊詩人を見かけた。
これまた大きな建物を見つけ看板を見ると、『冒険者ギルド』の文字。
中に入ると今まで訪れたどのギルドよりも内装が豪華で、人か多くざわついていた。
人見知りを発動しながら依頼が貼られている掲示板のようなものを見る。
冒険者は基本的に、ギルドで魔物の討伐などの仕事を受けお金をもらったりする。
この先の旅路を考えると、この都市に滞在できるのは長くて1ヶ月。
それまでにできる限りの金を稼ぐと共に、一緒に旅をする仲間も見つけたい。
というかそれが最大の目的だ。
とりあえず依頼を受けてからにしようとカウンターへ向かい、説明を受ける。
依頼が多いこの街では、冒険者はS~Fのランクが振り分けられるらしい。
依頼もその難易度によってランクが振られているため、自分のランクと同じものを受けるのが主流だとか。
ときどき自分の実力より上の依頼を受けようとする人もいるんですよね〜、とギルドの受付嬢は困ったように笑っていた。
初兎はそんなに戦闘が得意ではないのに加え歴が浅いため、Eランクと判定された。
最初の依頼なので、比較的簡単な薬草採取を選ぶ。
薬草採取は、地味な仕事なので人気はない。
だが、どのような薬草が生えているかなどを知れるため初兎としてはとてもありがたいものだった。
思ったよりもめんどそう、とぼやきながらギルドを出、門へと向かう。
声をかけられ振り返ると、先程噴水でうたっていた吟遊詩人がいた。
ほとけと名乗った人物はにこっと明るい笑みを浮かべる。
見ているとほわほわするような、そんな笑顔だ。
勝手な想像で1人身を縮こまらせていると、ほとけが真剣な眼差しで言った。
わたわたと大きな動きで言うほとけのおかげで緊張が解けた初兎は、目をさまよわせた。
初対面の人が苦手な自分が、ものを教えられるのかと。
しかし、話しやすそうな雰囲気のほとけならば大丈夫かもしれない、という考えに至り引き受けることにした。
ほとけの顔がぱあっと明るくなる。
2人で森へと出てから1時間。
ほとけの話しやすさと明るさのおかげで、2人は『いむくん』『初兎ちゃん』と呼び合うほどに仲良くなっていた。
それ以外はからっきしだけど〜、と笑うほとけ。
ほとけが笑いながら地面に座る。
その隣に初兎も腰を下ろしきく体制をとった。
本当の名前は違うが、その村出身の者は大半が吟遊詩人になるためそう呼ばれている。
争いごとなどとは無縁で、村には詩が溢れているらしい。
初兎が1度は行ってみたいと思う村の1つだ。
ほとけが地面の草をいじりながら語る。
少し学べば誰でも使える五大魔法より断然特殊魔法の方が難しい。
その上治癒や防御など、特殊魔法内でもトップレベルで難しいものだ。
それを人に教えたというのだから、そのときの魔法使いは相当力があるのだろう。
だから旅することにしたんだ〜、とほとけが言った。
仲間を探しているのは初兎も同じ。
ほとけを誘えば、了承してくれるかもしれない。
防御魔法と治癒魔法が使える人というのはあまりいないが、パーティーに1人いるだけで安心感が違うのだ。
それに、人見知りな自分でもほとけとなら一緒に楽しく旅をできるのではないか。
そう思ったが、断られたらどうしようという考えが浮かび、少し悩む。
緊張しながら言葉を紡ぐ。
これからよろしくね! と笑うほとけに緊張が解け座り込んでしまった。
2人でひとしきり騒いだ後、取った薬草を持って森を出る。
どんな人がいいのかを考えていると、ほとけが思いついたという風に手を叩いた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。