アナスタシアは目を開けた。
柔らかな苔の匂いが鼻腔をくすぐる。
目の前には、小さな光がふわふわと浮かんでいた。
ホタルのような淡い輝きを放つのは、妖精たちだった。
彼女は混乱しながら周囲を見回した。
深い森の中、清らかな泉のほとりに立っていた。
満天の星空が頭上に広がり、
木々の葉が月光に照らされて銀色に輝いている。
穏やかな声が響いた。
白髪の屋敷しもべ妖精が杖をつきながら近づいてきた。
古めかしい宮廷服を纏い、厳格な表情をしている。
だが、その瞳には
深い哀しみと安堵が混ざり合っていた。
オリーと呼ばれる教育係のしもべだった。
アナスタシアの声は弱々しかった。
まだ夢の中にいるような感覚が抜けない。
オリーは短く告げ、膝を折って頭を垂れた。
少女は足元が崩れるような感覚に襲われ、
泉の縁に崩れ落ちた。
涙があふれ、黄金の雫となって水面に落ちた。
波紋が広がると同時に、
金色の花弁が水面に浮かび上がった。
隣りにいたもう一人の屋敷しもべ。
ネリーが慌てて駆け寄る。
小さな手がアナスタシアの目を覆い、
能力を封じようとした。
アナスタシアは震える肩を抱えた。
嗚咽が喉の奥で詰まり、息がうまくできない。
突然、大きな蹄の音が森に響き渡った。
深い森の中から、優美な姿が現れる。
銀色の鬣を持ち、
透き通るほど美しいユニコーンだった。
セレーネ——
王家の守護獣として長く仕えてきた牝のユニコーンは、
ゆっくりと娘の傍らに寄り添い、頬を舐めた。
その温かな感触に、アナスタシアはさらに涙を流した。
涙がセレーネの鼻筋に触れ、角が淡く光る。
ネリーが再び頭を下げた。
セレーネが先導し、アナスタシアを背に乗せた。
ネリーは魔法で灯りをともし、森の小道を進む。
森の奥からは様々な鳴き声が聞こえてきた
—妖精の囁き、狼の遠吠え、
そして聞き慣れない鳥の歌。
アナスタシアは囁いた。
オリーは沈痛な面持ちで答えた。
アナスタシアは唇を噛み締め、何も言わなかった。
セレーネの背に揺られながら、夜空を見上げた。
雲一つない星空が広がっていた。
まるで王国の星空が移り住んだかのように、
同じ星座が瞬いている。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。