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第1話

☔️Prologue☔️
188
2020/10/22 14:35

ぽつ。ぽつ。
小さな雨粒が、傘にあたって歌を歌う。
私はいつも通り、鼻歌を歌いながら、神社の真っ赤な鳥居をくぐった。
「………優樹…」
私はそっと、声を漏らす。
空は灰色に染まっていて、とてもわくわくできる雰囲気ではなかった。
もしも晴れていたら鬼ごっこをしたり、かけっこをしたりできるのに。
雨が降ってたらなんにもできない。
雨は嫌いだ。
「………」
「…………………きた。」
私は10秒、目をつむった。
これが彼、優樹と会う時の約束なのだ。
冷たくて、どんよりとした風が頬にあたる。
ぽつ。ぽつ。と聞こえていた雨の音が、ザーザーとはっきりと聞こえる。
私は心を無にして、頭の中を空っぽにした。
なにもない。なにもない。なにもなかった。
すぅと息を吸い、はぁと吐く。
心も体も落ち着き、風が爽やかに感じたとき、
「もういいよ」
耳元で聞き覚えのある明るい声が聞こえた。
私はぱっと目を開けた。
「おまたせ。」
優樹はにっこり微笑んだ。
「優樹…!」
私は胸の高鳴りを抑えられず、優樹に抱きついた。
甘いお菓子のような匂い。やっぱり優樹だ。
優樹はもちろん嫌がりもせず、私の頭をポンポンと優しくたたくように撫でた。
彼の大きな手が私の頭をつつみこむようで、なんとも気持ちが良かった。
「…優樹!あのね!あのね!」
私は昨日の夜あったこと、ゲームしたこと、全部話した。
優樹はうんうんと話をたくさん聞いてくれた。
昔からそうだ。出会った頃から。
いつも私に寄り添ってくれて、笑顔で、おこるところを見たことがない。
─やっぱり、大好き。
それから、私は日が沈む頃まで優樹と話したり、手遊びをしたり、しりとりをしたりした。
「…じゃあ、そろそろ」
優樹がベンチから立ち上がった。
「…うん。またね」
私が別れの挨拶をすると、優樹はまたにこっと微笑んで、私の目に手を当てた。
視界が真っ暗になる。
ビュウウと強い風が吹いたかと思うと、すっと優樹の手が離れた。



───そこに優樹はいなかった。



「…また明日…」
私はそっと言いのこして、神社を後にした。

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