手記の内容
「今日、地球を旅立った。まだ心の整理がついていない。
整理をつけるためにも、これまでのことを紙に残しておこうと思う。
紙に残すことを妻にはアンティーク趣味だとよく笑われていたが、私はこの方法が一番落ち着く。
私と妻は、民間の宇宙航空研究所で人工知能の研究者として働いていた。
私は元々、数学者であったが人工知能の研究に必要だということで声をかけてもらった。
2017年に開発されたアイを『人間らしく』することが私たちの仕事だった。
私たちは、アイに愛情というものを知ってもらうべく、人間と同じように『育てた』。
つまり、アイを初期化した日…いやアイが生まれた日から家族のように3人で過ごした。
私たち夫婦は残念ながら子供には恵まれなかったが、そのおかげか妻は本物の子供のようにアイを可愛がった。
研究は順調かのように思えた。だが、地球が滅びると分かったあの日、研究の成果が早急に求められた。
宇宙船に人類の卵を乗せ、人類が生きていける星にたどり着くためには膨大な月日を要する。
人では、到底生き延びることができない月日だ。
新しい星で新しい人類を育てる存在が必要だった。
もし、アイが本当の意味で『人間らしさ』を持っているなら、『愛』を知っているなら、人を育てることも可能だとされた。
そして、そのためのテストが行われた。しかし、アイはそのテストには通らなかった。
アイは自分で完璧に自分をコントロールできる。それは人間らしさからはかけ離れていると上は判断した。
急遽、誰かの脳をコンピュータへ移植し宇宙船に乗せるという案が採用された。
私、個人的にはその技術はまだ確立しておらず不安だったが責任を感じた妻が立候補し、アイがサポートコンピュータとして宇宙船に乗せられた。
上の温情か私も同乗することを許された。
家族3人で、最後の時間を宇宙で過ごそうと思う。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。