第4話

前代未聞のターゲット🎯
44
2018/04/16 08:01
リン
ショウさん、明日の依頼忘れてませんよね?
ショウ
あ?分かってるよボクもそんなに馬鹿じゃない。
ほら、もう遅いから帰ったらー?
リン
全く…
残念なイケメンなんだから
ショウ
残念な…なんだって?
聞き返した時にはもうリンは帰ってしまった。
ショウは訳も分からず肩をすくめた。
ショウ
なんでボクはあんなバカを助手にしちゃったかなー
ショウ
バカだし、バカ下手だし、バカ不器用だし
ショウは1人でバカバカ言いながら階段を上り仕事部屋へ向かった。
机からスケジュール帳を引っ張り出して明日の予定を確認する。
ショウ
また政治家殺しかよ。
…もっと大きな仕事をちょうだいよ
先の予定まで確認すると、1週間後に予定が入っていない日が丸2日ある。

ショウはその空欄になった2日を見てため息をついた。
普通は休み、それも丸2日あると嬉しいもの。
しかし彼は逆。

国際指名手配犯の身であるため容易く出かけることは出来ないし、彼は仕事を生きがいとしている。
成功報酬や依頼料を貰えるから毎日毎日仕事をしている訳では無い。
息抜きとして仕事をしているのだ。

そんな彼にとって休みの日はむしろストレスの溜まる日なのだ。
彼の仕事は毒盛り屋。
名前のインパクトとは裏腹に、とても繊細な仕事である。


"ターゲットに気づかれることなく接近し、自分なりの美を表現しながら確実に殺める。"


殺し屋の中で1番美しい仕事だ。



ショウ
何しようか…
どっかの誰かを殺す依頼が入ればいいんだけど
いくら空欄のスケジュール帳を睨みつけても予定は埋まらず、ショウは小さく舌打ちをした。
その時………
『ピンポーン』と玄関から聞こえた。
こんな夜中にどこの誰だ、と内心イライラしながら玄関のドアを開けた。
ドアの前にはがたいのいい、背の高い男性が1人立っていた。
ショウ
はい。
で、どちら様?
自治会費なら先月まとめて払いましたけど?
男性は一礼をすると、しっかりした口調で話した。
??
"POISON"と呼ばれている毒盛り屋さんは、あなた様でございますか?
ショウ
え、ええ。
そうでございます…
相手の口調に釣られていることに気づいて、吹き出しそうになった。
ショウ
その名前を知っているということは、今日はご依頼で?
??
はい、その通りでございます。
よければ中でお話ししたいのですが…
ショウ
…( 'ω')
??
失礼を承知の上です。
…何分、人に見られると厄介なもので
ショウ
分かりました。
どうぞお上がり下さい
夜中に訪ねてきて中に入りたいと言ってきたのは、どこかの国王以来2人目だ。

これは大物だ、とワクワクしながら客間へ案内した。
客間に飲み物と菓子、契約書類を持っていく。
あの2日が埋まるくらいの大仕事がいいな…と願っていたのがバレたのか、客はニッコリと微笑んだ。
??
恐らく、あなた様がこれまで経験したことのないほどの大仕事でございますよ。
…そんなにキラキラした目を向けられては、お話しずらくてたまりません
ショウ
ああ…これは失礼。
ついつい大仕事だとワクワクしてしまうものでね
ショウと客人は紅茶を一口飲んでから顔を上げた。
少年のようにワクワクが隠せなかったショウの顔は、すっかり毒盛り屋の顔に変わっていた。
ショウ
それで…ご依頼の内容は?
??
単刀直入に申します。
あなたに神殺しをしていただきたい。
"神殺し"という聞いたことすらない言葉に思わず驚いた。
ショウ
つかぬ事を聞きくけど…"神殺し"とは?
??
文字通り、神を殺していただきたいのです。
私共の国は、理不尽な神に毎年生け贄を捧げているのです。
何が理不尽なのか、話すと長くなりますので今はお伝えしません。
ただ言えるのは、神がしているのはあまりにも酷いこと。
ショウ
なるほど、神に生け贄を捧げるのをやめたいけどやめれないって感じか。
??
おっしゃる通りでございます。
ショウは手元の契約書類に「神殺し(生け贄をやめたい)」と殴り書きでメモした。
ショウ
ところで、その神ってのはボクが知ってる神と同じだよね?
??
まあ、大体同じというところですかね
ショウ
神にいたずらするとえらい酷い目に遭うってよく言うけど、そこは大丈夫なの?

ボクの事もだけど、その国はひどい目にあったりしないの?
??
あなた様には何の害もありません。
我が国も同じです。
どうかご安心を。
メモに「国、ボクへの天罰無し」と付け加えて書類を男に出した。
ショウ
ご依頼は神殺し。
条件としては、
ボクや国には天罰は下らないということと、"神殺し"は実現可能だということを約束すること。
…よければここにサインを
??
ええ、もちろん天罰はありません。
神殺しは実現可能です。
神のいる場所へ行くことは簡単なので、あなた様の腕があれば余裕かと思います。
男は迷いなくペンを手に取り、書類にサインをした。
ショウ
あと、日程は来週のこの2日間でも大丈夫かな?
そう言ってショウはスケジュール帳の空欄になった2日のところを指した。
??
ええ、問題ありません。
それを聞くと、ショウはすぐにこの予定をスケジュール帳に書き込んだ。
これで来週も仕事がみっちりだ。
??
POISONさん
ショウ
ボクはショウだ。
POISONじゃなくてショウって呼んで
??
…ショウさん。
よろしく頼みます
男は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
礼の深さから、この依頼の重さが伝わってくる。
ショウ
ご存知かと思いますが、ボクは今まで1度もターゲットを逃したことは無い。
それどころか、ターゲットに気づかれたこともない。
ターゲットが最後に見るのは、ボクが作った美しすぎる最後の晩餐。
何も知らず、何も気づかず目の前の芸術を見て死んでいく。

……神にも見せてやりましょう。ボクの美しい芸術を。
ショウの熱量に押されて少し引いている男の手を握り、笑顔で男の目を見た。
ショウ
ボクに任せてよ
その言葉を聞いて、男は無言で大きく頷いた。
ちらっと見えた目には涙が溜まっていた。

彼の涙は零れさえしなかったが、ショウの心に強く焼き付いた。
??
では、来週サイラ国へいらしてください。
軍のものが迎えにあがります。
お待ちしてますよ、ショウさん
そう言って彼はショウの家をあとにした。
ショウ
サイラ国って確か田舎だよな
ふと、彼の名前は何だったのかが気になって契約書のサインを見た。
ショウ
……これサインって言うのかよ
そこにはうねうねした線が数本。
読めないし、偽造しようと思えば誰でも出来てしまうようなサインらしきものがある。
ショウ
ア…サ……うーん、わからん
解読を諦めて契約書をファイルに仕舞うと、
空欄が無くなったスケジュール帳が目に入った。
ショウ
よし…来週も仕事三昧だ
ボクの美を見せつけてやる!
パンパンに詰まったスケジュール帳を見つめて、ショウは満足そうに2回頷いた。
明日の準備のため、彼はとても楽しそうな足取りで薬品庫へむかっていった。

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