たっつん side
窓の外が少し明るくなって目が覚める。
隣には全くタイプじゃない男が寝ている。
どっかの社長の息子らしいが、俺にはそんなこと知ったこっちゃないねん。
俺を高い金で買ってくれるかどうかしか興味が無いんや。
…早く着物直さなあかんな。
俺の仕事は「花魁のたっつん」を売ること。
朝に身体を見せるまでサービスする必要無いやろ。
着物を着直すのにもいい加減手馴れた。
何年も何年もこの遊郭の中にいれば嫌でも覚えるしかないんや。
「俺はそんなに安うない」
そう言いたいのをぐっとこらえる。
サービスしたくないとはいえ、客や。
適度にお金を落としてもらえるくらいには構う必要がある。
ぎゅ
いやいや男の腕の中に行き、また浅い眠りにつく。
いっそ寝てる間は現実逃避になるからな。
たっつん side
気持ち悪い言葉には嘘の笑顔でお返しをした。
さてと…、二度寝でもするかねぇ…
あぁ、うりか。
うりの言うことは事実。
うりと俺は虹桃屋の花魁や。
芸を売り、甘い言葉を売り、自分の身体を売る。
花魁だから相当な金持ちじゃないと会うことすら難しいとはいえ、世の中にお金持ちは思ってるより沢山いる。
だから、自分の正気を保つためにセックスを好きになった方が楽に決まってんねん。
たっつん side
うりと一緒にシヴァさんの部屋に入る。
正直今回はなんの用か検討がついてへんのよな。
2人の会話聞いてると、ここが遊郭ってことを忘れそうになるなぁ。
普通に外の世界で友達として出会いたかった
…なんて言ったとこで何も変わらんから言いひんけどな
ほーん…
普段の生活の取りまとめ役をしてるのあさんも聞いといた方がいいって…まぁまぁ重要な話やな。
シヴァさんはそう言ってドアの方を向く。
ん?俺らの話じゃないんか?
なんでこいつらが?
状況をよく飲み込めていない内にえとさんが帰ってしまった…
遊郭で働く遊女は、教育を受けたあとしばらくは先輩遊女にくっついて客と話をする。
そこで十分経験を積んだら、水揚げ、つまり初えっちをしてから、1人前の遊女と認められる。
やって、俺らが身体売ってるのを取りまとめてるのは、のあさんやんか。
ゆあんくんがちょっと震えてる気がすんのも気になるけど
あれ、聞こえてたんかい
なるほどなぁ。
ゆあんくんとどぬにはトラウマになって欲しくないからそこはよかった。
なんかふたりはまだ混乱してるみたいやけど…
でもどーせそんなの聞き入れられないやろ
と、一瞬抱いた淡い期待を諦めようとした
シヴァさん的には大事な花魁の俺らを繋ぎ止める餌が来たとか思ってんかね
シヴァさんの性根が優しいのはこれまでの付き合いで十分わかってるんやけど
それ以上に虹桃屋のことを考えているからなぁ
まぁ、花魁だもんな。
それこそ俺らはそんなに安うない。
値段も、価値も。
…さっきからゆあんくんの調子がおかしいのが気になるなぁ…
ちゃんとよく見ておかなあかんな
さっき、寝そこねたしな
うりが下を向いて考え込んでいるゆあんくんとまだちょい顔が赤いどぬに向かって言う。
のあさんの声に手を振って返事を返して4人で外に出る。
部屋が反対側にあるうりに手を振って別れる。
少しゆあんくんの顔が明るくなったからとりま良しとするか。
ゆあんくん達と別れ、部屋で布団に入り考える。
俺の好きなタイプってなんやろな……
まぁ、もしいるのなら
太陽見たいな人がいいなぁ
この暗い夜の街を忘れられるくらい眩しい太陽みたいな人。
そんな人が遊郭に来るとは思えへんけどな。
まぁ、探すだけ探してみよう。
そんなことを思いながら俺は眠りについた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。