(もう、ハートが持たない)
私は、屋上のフェンスにもたれかかり深くため息をついた。
彼に助けられた時のドキドキ感、そして秘密がバレてしまうかもしれないという不安感。
色々な感情が押し寄せ私の心を締め付けていた。
しばらくして私は、意を決して教室に戻ることにした。
(…大丈夫、きっと何とかなる)
自分に言い聞かせるように小さく呟き教室のドアを開けた。
教室に入ると私は、違和感を覚えた。
(…あれ? 見たことない人がいる…)
教室の一番後ろの席に見慣れない男子生徒が座っていた。
黒髪で切れ長の目をしていてどこか冷たい印象を受ける。
(誰だろう? 新しい生徒かな…?)
そう思って、自分の席に着こうとすると隣の席の瑠奈ちゃんが私に話しかけてきた。
曖昧な笑顔で答える私。
瑠奈ちゃんは、優しく微笑んだ。
私は、後ろの席の男子生徒を指差しながら尋ねた。
瑠奈ちゃんは、あっけらかんとそう答えた。
私は、少し驚いた。
瑠奈ちゃんは、少し呆れたようにそう言った。
吉川 朔。
私は、その名前を心の中で繰り返した。
(黒瀬くんとは、真逆のタイプだな…)
彼は、明るく誰にでも優しく太陽のような存在。
一方、吉川くんは、クールで人を寄せ付けない氷のような存在。
正反対の二人が同じクラスにいるなんてなんだか不思議な気がした。
その日の授業中、私は、何度も吉川のことが気になった。
(あの人は、一体、何を考えているんだろう…)
吉川くんは、授業中、ほとんど顔色を変えずにじっと前を見つめていた。
時折、窓の外を眺めたりノートに何かを書き込んだりもしていたが何を考えているのか全くわからなかった。
(もしかしたら何か悩み事があるのかもしれない…)
そう思った瞬間、私は、なぜか吉川くんのことが少しだけ気になり始めた。
放課後。
私は、眠気とだるさを感じながら窓の外を眺めていた。
(眠い… 黒瀬くんのこと考えていたから…)
駿に助けられた時のことを思い出し頬を赤らめる私。
ふと視線を窓の外に移すとグラウンドの方に人だかりができていることに気づいた。
(あれは、陸上部…?)
よく見るとグラウンドには、陸上部員たちが集まっていてその中心には、黒瀬くんの姿があった。
そしてその隣には、なんと転校生の吉川 くんも立っていた。
(えっ? 吉川くんも陸上部なの…?)
驚きながら二人を見つめる私。
黒瀬くんは、いつものように明るい笑顔で部員たちと話していた。
一方、吉川くんは、相変わらずクールな表情で腕を組んで立っていた。
二人の周りには、たくさんの女子生徒たちが集まっていて黄色い歓声を上げていた。
(…黒瀬くんと吉川くん、二人ともすごい人気だな…)
私は、少し呆れたようにそう思った。
(私とは、住む世界が違う人たちだ…)
そう思った瞬間、急に視界が暗くなった。
(あっ…)
私は、意識が遠のいていくのを感じた。
体がふらつき立っているのがやっとだった。
(まずい…倒れる…)
私は、そう思った瞬間、意識を失い、その場に倒れてしまった。
遠くから誰かの声が聞こえる。
聞き覚えのある優しい声。
冷静で落ち着いた声。
私は、それが黒瀬くんと吉川くんの声だと気づいた。
私が意識を取り戻すとそこは、見慣れない場所だった。
白い壁白いカーテン、そして消毒液の匂い。
(ここは…?)
私は、ゆっくりと体を起こし辺りを見回した。
掠れた声でそう呟くと一人の少女が私に駆け寄ってきた。
そこにいたのは、親友の瑠奈ちゃんだった。
私は、ぼんやりとした頭で瑠奈ちゃんの名前を呼んだ。
瑠奈ちゃんは、涙目で私を抱きしめた。
私は、謝りながら周囲を見回した。
すると瑠奈ちゃんの後ろに保健室の先生が立っていることに気づいた。
私が状況を把握しかねていると瑠奈ちゃんがそう言った。
私は、間抜けな声を出してしまった。
興奮気味に瑠奈ちゃんが説明してくれた。
私は、状況が飲み込めずただただ、呆然としていた。
(吉川くんが私を…お姫様抱っこ…?)
信じられない気持ちでいっぱいだった。
そんな私の様子を見て瑠奈ちゃんは、くすくすと笑った。
からかうように瑠奈ちゃんが言った。
私は、頬を膨らませた。
その時、保健室のドアが開き一人の男子生徒が入ってきた。
クールな声が保健室に響く。
そこに立っていたのは、吉川 くんだった。
私は、照れながらお礼を言った。
吉川は、私の顔をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
私は、言葉を失った。
(え? キス…?)
突然の告白に頭の中が真っ白になる。
(えっ!? 黒瀬くんと吉川くん、2人からキスされた!?)
(待って待ってどういう状況なの!?)
私は、混乱のあまり、思考停止してしまった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。