第2話

第1話 キスの余韻
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2026/02/09 12:39 更新
図書館の静寂を破るように私の心臓はけたたましく鼓動を打っていた。

水瀬彩桜みなせ さくら
えっ?
目の前にいるのは、陸上部のエースで学園中の人気者、_黒瀬駿@くろせ しゅん。

太陽のように眩しい笑顔が私の心臓を射抜く。


完璧な笑顔の彼がなぜ、私の目の前にいるのだろうか。
黒瀬駿くろせ しゅん
ご、ごめん!その…つい、可愛くて…
顔を真っ赤にしてしどろもどろになっている。


次の瞬間、彼は覚悟を決めたように目を閉じ私の唇に触れた。

柔らかく甘くそして、夢のようなキス。

初めてのキスに思考回路は完全に停止してしまった。

キスが終わると黒瀬くんは、バツが悪そうに頭を掻きながら

黒瀬駿くろせ しゅん
その、やっぱり。忘れて
と逃げるように図書館を出て行った。

残された私は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

(…今の夢、だよね?)

頬に手を当ててみる。

まだ熱を持っている気がした。

(黒瀬くんが私にキス…?)

信じられない気持ちでいっぱいだった。

彼は、学園中の憧れの的。

スポーツ万能で優しくて誰からも好かれる。


そんな彼がなぜ、私のような平凡な女の子にキスをしたのだろうか。

(まさか、からかってる?)

そんな考えが頭をよぎり胸が締め付けられる。

でも、彼の瞳は、真剣だった。

嘘をついているようには見えなかった。

(じゃあ、一体、どういうことなの?)

ぐるぐると思考が巡る。

その日の夜、私は、なかなか寝付けなかった。

駿のキスが頭から離れない。

柔らかい唇の感触、甘い吐息、そして、ドキドキと高鳴る鼓動。

全てが鮮明に蘇ってくる。

(もしかして、私、黒瀬くんのこと…)

そこまで考えて慌てて頭を振った。

(そんなことありえない)

だって私たちは、住む世界が違う。

彼は、太陽のように眩しい存在……私は、日陰にひっそりと咲く花。

決して交わることのない存在。

そう思っていたのに。

胸の奥がチクリと痛んだ。

翌日、私は、黒瀬くんを避けるように生活した。

顔を合わせるのが怖かった。

何を話せばいいのかわからなかった。

でも、どうしても彼のことが気になってしまう。

授業中も休み時間も彼の姿を目で追ってしまう。

そんな自分が嫌になる。

(…私は、一体、どうしたいんだろう?)

夕暮れの教室で私は、深くため息をついた。

その時、背後から優しい声が聞こえてきた。

黒瀬駿くろせ しゅん
水瀬さん?
振り返るとそこに立っていたのは、やはり、彼だった。
心臓が跳ね上がる。

(どうしよう、何を話せば…)

緊張で言葉が出てこない。

彼は、少し不安そうな顔で私を見つめている。

黒瀬駿くろせ しゅん
あのさ…昨日のこと本当にごめん。
 
深々と頭を下げる彼。
水瀬彩桜みなせ さくら
い、いいの。気にしないで
ぎこちない笑顔で答えるのが精一杯だった。

黒瀬駿くろせ しゅん
でも…やっぱり、ちゃんと謝りたくて
彼は、顔を上げ真剣な眼差しで私を見つめた。
黒瀬駿くろせ しゅん
水瀬さんのことその…前から可愛いなって思ってたんだ。
その言葉に息を呑んだ。

(まさかそんな風に思われていたなんて…)

信じられない気持ちでいっぱいだった。
黒瀬駿くろせ しゅん
でも、急にキスしたりして本当にごめん。嫌だったよね?
潤んだ瞳で私を見つめる彼。

水瀬彩桜みなせ さくら
えっと…
言葉に詰まってしまう。

嫌だったかと聞かれれば嘘になる。

でも、嬉しかったかと聞かれれば、それも違う気がする。

だって…私は彼のことをよく知らない。

彼は、学園の人気者で手の届かない存在だと思っていた。

そんな彼がなぜ、私に興味を持ったのだろうか。
水瀬彩桜みなせ さくら
その…びっくりしたかな
正直な気持ちを伝えた。
黒瀬駿くろせ しゅん
やっぱり、怒ってるよね…
しょんぼりとした表情で俯く彼。
水瀬彩桜みなせ さくら
怒ってないよ。ただ、戸惑ってるだけ
黒瀬駿くろせ しゅん
戸惑ってる?
顔を上げる彼。

水瀬彩桜みなせ さくら
だって、黒瀬くんのことよく知らないし。
黒瀬駿くろせ しゅん
そっか…
少し寂しそうな顔をする彼。

黒瀬駿くろせ しゅん
あのさ、水瀬さん
意を決したように再び私を見つめる。

黒瀬駿くろせ しゅん
よかったらこれから俺のこと少しずつ知っていってくれないかな?
ドキドキと胸が高鳴る。
水瀬彩桜みなせ さくら
それって…
 
私が言い終わる前に彼は、人差し指を私の唇に当て

黒瀬駿くろせ しゅん
しーっ。これは、僕たちだけの秘密だよ。
 
と囁いた。

心臓が止まるかと思った。

(僕たちだけの…秘密…?)

頭の中が真っ白になる。
黒瀬駿くろせ しゅん
誰にも言わないでほしいんだ。僕たちのこと
真剣な眼差しで私を見つめる彼。
水瀬彩桜みなせ さくら
で、でも、どうして…?
そう問いかけた瞬間、彼の表情が一瞬、歪んだ。

悲しげで苦しそうな、そんな顔。
黒瀬駿くろせ しゅん
言えないんだ…ごめん。
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるように苦しくなった。
水瀬彩桜みなせ さくら
わかった。言えないなら聞かない
精一杯、笑顔を作ってそう答えた。
黒瀬駿くろせ しゅん
ありがとう
少しだけ安心したような表情を見せる彼。
黒瀬駿くろせ しゅん
約束だよ?
念を押すように私の小指に自分の小指を絡ませてくる。

ドキドキしながら私も小指を絡ませた。
水瀬彩桜みなせ さくら
約束
夕焼けに染まる教室で私たちは、僕たちだけの秘密を交わした。

(これからどうなるんだろう…?)

期待と不安が入り混じる。

でも、誰にも言えない僕たちだけの秘密を共有することで黒瀬くんとの距離が一気に縮まった気がした。

帰り道、彼は、いつもより少しだけ近い距離で私の家の近くまで送ってくれた。
水瀬彩桜みなせ さくら
今日は、ありがとう
 
家の前で別れの挨拶を交わす。
黒瀬駿くろせ しゅん
こちらこそ、ありがとう。それじゃあ、また明日
少し照れくさそうに手を振る彼。

私も小さく手を振り返した。

家に入り自室のベッドに倒れ込む。

(僕たちだけの秘密、かぁ…)

心の中でそう呟き窓から見える夕焼けを見つめた。

誰にも言えない僕たちだけの秘密。

それは、甘く危険な、恋の始まりの予感とともに少しの切なさを運んでくるのだった。

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