なんで……
なんで俺はここにいるんだ……。
がやがやざわざわ騒がしいところはあまり好きじゃない。
明るすぎる光は目が痛くなるし、
そんな主張すんなよって言いたくなるくらい
大音量で流れる音たちで耳が痛い。
それなのに、俺は今、ゲームセンターにいる。
最近、校内ではしょっちゅう村宮に
引っ付かれて心休まる暇がない。
同じクラスだから日中は半ば諦めているものの、
せめて放課後は死守しなくては、
と毎日下校時刻になるたび
速攻で教室を出ていたが……
今日は失敗した。
珍しく教科書をしまうのにもたついていたら、
あっというまにやってきた村宮が笑顔で俺の腕を掴み、
問答無用でゲームセンターに連行して今に至る。
ついでに当たり前のような顔をした和田と三浦もいる。
何だここ……地獄か……。
ぶんぶん手を振ってくる村宮の目の前に
あるゲーム機を見て、俺は思わず顔を顰めた。
色とりどりの光を放つソレからは、
リズミカルな音楽が流れている。
まんまと和田の挑発に乗った結果、勝負は散々だった。
いやわかってたさ……
俺のことは俺が一番よくわかってる……。
リズムゲームが俺の敵だということは
前々からわかっていた……。
『音痴』って言われる俺が
リズムゲーム得意なわけねぇだろ!
負けず嫌いな性格のせいで、
しなくてもいい勝負をしてしまった。
低く唸るような俺の暴言を、和田は笑顔で受け流した。
苛立つ自分を抑えようと辺りを見渡せば、
クレーンゲームに張り付いている村宮と、
それを見守っている三浦の姿があった。
どれを狙うのか決めかねているのか、
クレーンゲームのまわりを村宮は
落ち着きなくぐるぐる回っている。
何を話しているのかまでは聞き取れないが、
村宮の言葉にいちいち何かを返している三浦は、
意外と面倒見がいいのかもしれない。
ふわ、と耳元に声と吐息がかかって、俺は飛び跳ねた。
さっきよりも全然ちけーじゃねーか!
ふざけんな! 急に声かけてきやがって!
確かに、三浦のイントネーションに少し違和感を覚えた。
そうか、あれは関西のイントネーションだったのか。
そうなのか……
標準語が分かんないから、黙るしかないのか。
三浦は三浦で、大変なのかもな……。
関西人の方がにぎやかなイメージあるし、
もしかしたら三浦の本性は……。
いや、想像できねぇ。
『別に無愛想じゃない』ってどの口が言ってんだよ。
関西弁封じられてなくても変わんねぇじゃねぇか。
都合の悪い事だけ無視しやがって!
時間の無駄だ! 今すぐ帰りてぇ!
不意に和田がそう零した。
視線はいっさい俺に向けられることなく
村宮と三浦の二人に注がれたまま。
和田の言葉に、俺は違和感しかなかった。
村宮が気遣い屋? 嘘だろ。
だって初日から「親友になろう」なんていう
頭おかしいやつだぞ。
俺が嫌だって言っても
お構いなしにグイグイ来るし……。
気遣い屋のきの字も見当たらねぇ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。