男の子に手を引かれ、私は人の列から抜け出した。
「あ、ありがとう…」
私は戸惑いながらもそう言う。
「うん…」
男の子も気まずいのだろうか。
少し頬を赤らめながらそう言った。
それからお互い沈黙が続いた。
「えと、君ってさっき、金魚すくい屋にいた子だよね?」
沈黙を破ったのは男の子だった。
「うん…」
人見知りの私は小さい声になりながらもそう返す。
「じゃあ、これ」
男の子はそう言うと、私に金魚の入った袋を差し出してきた。
大きな赤い金魚が入った袋だった。
「え、いいの…?」
私は戸惑う。
男の子は頷いた。
「あ、ありがとう…!」
私は多分その時、最高の笑顔だった気がする。
すると、男の子は何故か顔を真っ赤にさせて、
「君の名前は?」
と私に聞いた。
「安藤美鈴」
「美鈴ちゃんか~」
そういって男の子が何かを言おうとしたとき、
「大星!こっちよ!」
男の子のお母さんと思われる人がこっちにきて、男の子の手をひいて連れていこうとした。
「あ、じゃあ、またね!」
「うん、またね…!あ!君の名前は?」
私は慌てて男の子に聞く。
と、その時花火が始まった。
「××××大星!」
男の子の声と花火が重なり、名字を聞き取ることが出来なかった。
でも、
『大星くん』
この日が君と私の『記念日』__
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。