ゆきむらくんは彼自身のことを話してくれた。
彼の優しさを勘違いしたひとからいわれのない誹謗中傷をうけたこと。
彼の行動が曲がった形で伝わり,誰にも真意を理解されなかったこと。
…そのせいで,人と必要以上に接することを拒絶してしまうこと。
緊張した声から
少し上擦って笑いの滲んだ
自分を卑下するかのような声に変わって,
そして最後には涙に濡れた声へと。
ゆきむらくんの悲痛な叫びが聞こえてくるようで,
気付けば私の目からも涙があふれていた。
ただ,謝ることしかできなくて。
彼にかける言葉がない自分が不甲斐なくて,
彼の苦しみを本当に理解できないことがやるせなくて,
彼を苦しめてきた全てが許せなくて,
悔しかった。
自分が無力なのだと,改めて告げられた気がした。
この話をするのだって
相当勇気が必要だっただろう。
まだ出会ってほんの数日で
赤の他人のような私をこんなにも
評価してくれているとしても。
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…私はあの時,何を言おうとした??
『だから』
その後に続けようとした言葉は
夜の闇に紛れて溶けていった。
きっと誰も,知ることはない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。