「え?」
「なんだ」
と、ギロッと睨んでくる鈴木くん。あんた、ただでさえ目がキリッとして細いから、マジでその目付き怖いんですけど。
「いや、まさか初恋は動物です的な?」
「ちゃんと人だ」
鈴木くんはそう答えると、照れた感じに
「笑うなよ?」
と言った。
「うん。笑わないよ。約束する。」
そう伝えると、鈴木くんはソワソワしながら話始めた。多分、こういう話をする事に慣れていないのだろう。
「小学校の時だ。さっき行ったふれあいコーナーで、同い年くらいの女の子に出会った。その子、飼育係の人からもらった餌のセットを、転んだ拍子に盛大にぶちまけてな。心配になって駆け寄ったら、その子、周りにいた動物達に謝りながら一生懸命餌に付いた砂利をはらってた。みんなのご飯なのに落としてごめんって」
「へぇ!動物想いの子だね」
「あぁ。健気で良い子だった。その時に相手の名前も聞いたはずだが、もう10年くらい前のことだから忘れたよ。それっきりその子とは会えてないし、こんなのを初恋って言って良いもんかも分からんけどな」
鈴木くんのそんなピュアな初恋の話に、なんだか私がキュンとしてしまった。そんな鈴木くんに私は、
「そんな。鈴木くん自身がそう思っているのなら、それは立派な初恋だよ」
と言った。
「……そっか」
鈴木くんにも、そんな時代があったんだな。
そんな幼い頃の鈴木くんにも会ってみたかったな。
いろんな鈴木くんを見れて、今日は本当に贅沢な1日だよ。
それから少しして、私達はまた園内を周り始めた。そしてその後に、こんな出来事があった。
それはライオンバスに乗った時の事。ライオンがバスに付いているお肉を食べに来る事で、乗客がライオンを間近で見ることが出来るというものだ。始めの方、コースの作りの関係上暗いトンネルの中をバスが走るという一幕があり、その時に鈴木くんに、
「大丈夫か?」
と聞かれたのだ。
「え、なんで?」
「え…あぁ、いや……お前、暗い所ダメだったんじゃないのか?」
それを聞いて、もしかしてと思った。それは5月の林間学校の時の事だ。夜のナイトウォークで鈴木くんとペアになった時、私は怖いと大騒ぎをした。あの時のナイトウォークのコースは本当に暗くて不気味で、本当にお化けでも出るんじゃないかと思ってすごく怖かったけど、今は動物園の中のトンネルだし、他にお客さんも乗っているので全然怖くなんてなかった。
「もしかして、ナイトウォークの時の事言ってる?」
暗がりで見えにくかったけど、鈴木くんは首を縦に振っていた。なので私は、
「あぁ、あの時と状況も違って動物園の中だし、バスの中にいて安全だし、大丈夫だよ」
と答えると、鈴木くんは
「そっか」
と、言ってなんだかホッとしているように見えた。鈴木くんの細かい気遣いが嬉しくて、私はつい笑みがこぼれた。それに何より、あの時のことを覚えていてくれたってことが凄く嬉しかった。
「覚えてたんだ。あの時の事」
と言うと、鈴木くんはこう答えた。
「覚えてたよ。ずっと」
それを聞いて、私は心臓が飛び出そうになった。
私の事なんて、まるで眼中に入ってないであろうと思っていたのに、
鈴木くんの記憶の中にはちゃんと、私がいたんだ。
「い…意外だったな。鈴木くんが覚えてるなんて。なんなら……私の事なんて下の名前すら知らないんじゃないの?くらいに思ってたからさ。そんな事覚えててくれてたのが、ホントに意外だった。」
なんて話をしていたら、ライオンのゾーンに差し掛かったので、そこでその話は終わってしまったけど、バスを降りた時にこんな事を言って貰えた。
「里奈。だろ?」
「え?」
「お前の下の名前の話だよ」
鈴木くんが、私の下の名前を呼んでくれたのだ。
たったそれだけの事なのに、こんなに嬉しくなるんだね。
凄く胸がギュッと締め付けられた。
このままずっとここに居続けたら、鈴木くんはもっと私に、いろんな一面を見せてくれるのかな?
「そ、そうだよ。里奈であってるよ」
このままの流れで、里奈って呼んで良いよと伝えたかったけど、それを伝える勇気までは出なかった。
それに、この時の私は知らなかったのだけど、今日8月29日は鈴木くんの誕生日だったらしい。
なので後日の始業式で会った時に、
「窪塚くんから聞いたけど、この間会った日、誕生日だったんだって?もう過ぎちゃったけど、誕生日おめでとう」
と伝えてあげた。
「……あぁ」
鈴木くんにとってこの思い出が、17歳の素敵な誕生日プレゼントの1つになっていたら良いな。
NEXT▷▶︎▷▶︎第5話 おまけ
どうでしたか!?
今までよりは甘めの話になりましたw
胸きゅんして頂けたら嬉しいです😍
このシーン良かったドキドキ(๑ŐωŐ๑)/♡.゛
など、教えて貰えたら嬉しいです❣️
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。