第9話

先輩の家へ
121
2024/01/15 09:00
冷たい風が頬にあたり、気持ちがいい。
リドル
ねえ、フロイド。どこにむかっているんだい?
フロイド
んー、どこだと思う?
ニヤケながらフロイドは言う。
それをボクは後ろでフロイドにしがみつきながら眺める。

今、リドルたちは箒に乗って早朝の街の上を飛んでいる。ずっと決められた時間に起床してきたリドルにとって、この時間は起きていたことがない。
昇る朝日を浴びながら明るくなっていく街がこんなにも美しいものなのか。
リドルはじっと街を見下ろす。
フロイド
あ、金魚ちゃん。そういえば朝ごはんまだだったでしょ?
これ食べといて。
そう言われサンドウィッチを渡される。
人を殺した後だ。食欲なんて湧くはずもない。恐る恐る口に運び、ゆっくり咀嚼する。

ん……!!美味しい。具材はサーモンと玉ねぎとレタスだった。サーモンは燻製だろうか?程よい塩味があり、飴色に炒められた玉ねぎは優しい甘さだ。
甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい……。
寮生時代、エース達がよくチョコとポテトチップスを交互に食べていたのを思い出す。当時はドン引きだったが、今は気持ちが分かる。甘味と塩味は罪なマリアージュだな、と思った。
リドル
そういえばフロイド。お願いってなんなんだい?
リドルの目的はフロイドに殺されることだ。だがタダでは無い。お願いを聞いてあげたら殺して貰える。そういう条件のはずだ。
フロイド
え〜、内緒♡あっ!みてみて金魚ちゃん!もうすぐつくよ!
フロイドは先に見える大きな海を指さした。
リドル
海…?
フロイド
そ、うみ♡
ホタルイカ先輩のお家は海の中にあるからね〜
そう言いながらフロイドは、ヒュ〜と着陸しに行った。人魚のくせに、随分箒が上手いなとリドルは思った。
リドル
で、フロイド。まさか泳いで行くなんて言わないよね?
フロイド
金魚ちゃんあったまいい〜。
そのまさか♡
嘘だろ?リドルは学生時代の記憶を遡る。確か昔イデア先輩家に連れてこられた時は最新ジェット機で3時間かかったはずだ。
それを泳いで行くなんて…。どこにあるのかも曖昧な場所にここから何時間かかるんだ?
フロイド
大丈夫♡俺にまかせて。いい考えがあるから
リドル
キミの"いい考え"はいつも厄介……うわあっ
フロイドが急に海に飛び込んで人魚になり、水しぶきがかかった。
リドル
っ…!!フロイド!!服がびしょびしょじゃないか!どうしてくれるんだい!
フロイド
まあまあ金魚ちゃん、そう赤くなんなくってもいいじゃん。これからもっと濡れるんだし
リドル
フロイド、どういうことだい?
ムッとした表情でリドルは言うと、海の中からフロイドは腕を広げた。
フロイド
おいで
リドル
は?
フロイド
おいで
リドル
何を言っているんだい?だってキミがいるところは海で、見るからにかなりの深さがある。ましてやボクは人魚なんかでは無いんだよ。
フロイド
も〜、またグチグチ言って〜。
あっ、もしかして金魚ちゃん。怖いの?
そう言われ、リドルの赤い顔はさらに赤くなる。
リドル
誰に向かって言っていると思いだい?ボクはこのリドル・ローズハートだ。海に飛び込むぐらい、怖くなんてないよ。
そう言い放ち、勢いよくちゃぽんっと海へ飛び込んだ。が。
リドル
(まずい)
リドル
(ボクとしたことが、このままでは溺れ死んでしまう……)
リドル
(そしたらフロイドに殺して貰えない…!!)
視界がどんどん暗くなっていく。深く深く沈んでいき、どこまで続くんだろうなとぼんやり考えていた。それにつられて息が苦しくなっていく。
フロイド
アハ♡金魚ちゃんって本当頭良いのか悪いのか分かんないよねえ
フロイドはリドルの後ろから抱きしめ、リドルの身体が沈んで行くのを防いだ。
フロイド
大丈夫。考えがあるってゆったでしょ
フロイドはリドルの顔に手を当て後ろに向かわせ、目を合わせるとキスをした
リドル
……んふ!!
なんだ、これは……
リドル
苦い!!
フロイド
魔法薬ねじ込んだからねえ。これで海の中でも呼吸できるようになったよ
なるほど。でも一言何か言ってくれてもいいのではないだろうか。
フロイド
まあまあそんな難しい顔しないで。んじゃっ行こう。ホタルイカ先輩ん家。
手を差し出され、そのまま引かれていく。
途端、思い出した。
そうだ、お母様はもう居ないのだった。ケーキは食べ放題だし、夜はどれだけ起きていても良い。
自由なのだ。

何処にでも行ける、そんな気がした。

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