これは閲覧数1000超え記念の番外編です。本編とは全く関係ありません。
私はなんとなく、ふわふわしたところにいた。
現実ではないような…、でも現実なような…、微妙なライン。
次に見えたのは、懐かしの光景。
車がびゅんびゅん行き交う通り。アスファルトでちゃんと舗装された道。周りには、スーツ姿の人や学生、デート中のリア充たちまでいる。でも少しだけ違和感があって…。
そう…ここは、
令和。
突然聞こえてきたその声に驚いた。だって、令和に幸次郎さんがいるわけないから。
次に聞こえてきたのは緋乃の声。おかしい、おかしすぎる。こうなるはずがない。令和に…幸次郎さんと緋乃が…いるわけない。
そして最も気になるのは、先程からの妙な感覚だった。ふわふわしたような、でもしていないような。変な感じがするようでしない。これは一体…
そうか、これは、夢の中だ。ならば全てに辻褄が合う。
しかし夢だと分かっていても、久々の令和を楽しみたかった。起きて大正に戻る気は起きなかった。
緋乃に突然質問されて、私は何と答えたらいいか、わからなかった。逃げれば良いのか、ちゃんと答えれば良いのか。
でも、せっかくの夢だ。思いっきり、暴れてやろうではないか。
一思いに言い切ると、緋乃は目を丸くした。
緋乃は飛び跳ねてはしゃいでいる。
令和とはいえ夢の中。私の知っている令和とは若干の違いがありそうだ。だから具体的な名は出せないけれど、抽象的な名なら出してもいいかもしれない。
緋乃も乗り気なようなので、私は遊園地に行くことにした。
夢というのは都合がいい。すぐに遊園地を発見した。それも、結構大きい。そして、空いている。並ばなくても人気アトラクションに乗れる程だ。
はたまた都合よくポケットに丸まっていた一万円札を取り出して、3人分のチケットと交換した。
緋乃が見ているジェットコースターは日本屈指の大きさのもの。角度も急だ。一回転するところもある。乗ったら相当怖いかもしれない。
走っていってしまう緋乃を追いかけて私はジェットコースターの乗り口までやってきた。
見るとジェットコースターは最初の坂を登っている。ガラガラと、ベルトコンベアの音がした。
そこまで言いかけると、ものすごい叫び声が聞こえた。
他愛もない話を繰り返していると、順番が回ってきた。開いたゲートから乗り込む。
私は1列目に案内されてしまったが、緋乃は独り言のようにぼそりと意見を言ったために2列目になった。幸次郎さんが代わりに私の隣に座った。
幸次郎さんも本当は後ろが良かったようである。でも座ってしまったものは仕方ない。
発車のベルが鳴り、ジェットコースターはぐんぐんと上昇し始めた。もうすぐ…頂上。そしてそこから…急降下。
そんなことを考えている暇もなく、私に大きな重力がかかった。
緋乃はなんだかんだ大声で叫んでいる。私も結局叫んでしまった。幸次郎さんは、体を固くしていて…。
段々とジェットコースターに乗っている感覚がなくなっていく。景色も薄れていく。頭が後ろに倒れていくような気がした。
どうやら、目が覚めてしまったようだった。最近毎日見る板張りの天井が視界いっぱいに広がっている。大正に戻ってきてしまった。残念。
ジェットコースター、最後まで楽しみたかったなあ…。
そんな事を考えながら、体を起こす。布団から出て、畳もうとしたその時。布団から、1枚の紙切れが出て来た。見覚えがある。
それは私が、さっきまで、そう、夢の中で持っていた、遊園地のチケット。
夢だったはずなのに、チケットがこの大正時代に存在する。これほど不思議なことも…あるものなんだ、と思った。そしてだんだん恐ろしくなってきた。
目の前のチケットが不気味に思えて、私はそれを箪笥の奥に押し込んだ。もう、目にすることのないほど、奥に。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!