第5話

第四章 ー 風歌に指す光 ー
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2025/12/15 02:00 更新
足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
木々のざわめきが静まり、代わりにどこからともなく歌声が響いてきた。
柔らかくて、あたたかくて、
でも少しだけ、胸の奥を締め付けるような、不思議な旋律。
こはね
「 ……ここ、が…“風歌の道”……? 」
えむは両腕を広げて、まるで舞台に立つみたいにくるっと回った。
えむ
「 “風歌の道”へ〜ようこそ〜〜っ♪
  ワンダー王国に行くには、この道がいちばん早いの! 」
( “風歌の道”って名前だけで不安だったけど……
  想像以上に、変な場所… )
一歌は慎重に周囲をみながら、こはねの後ろに立つように位置を変えた。
その目はずっと周囲の警戒を続けている。
「 ……歌、ずっと聞こえてるね 」
えむ
「 うんっ!この道には、
  昔王国にいた歌姫の“残響”が残ってるんだって!
  通る人の心を優しくしてくれるみたいだよ♪ 」
優しく……か。
今の私たちには、その優しささえ刺さる。
昨日、処刑台の影がこはねを覆っていたこと。
私が手を伸ばさなければ、彼女はもう――。
( ……絶対守る。こはねは、もう誰にも渡さない )
こはね
「 杏、ちゃん、? 」
「 ん、大丈夫、行こ? 」
こはねは小さく頷き、私の袖を摘んだ。
一歌
「 ……進行方向はあっているんですよね、?えむ様、 」
えむ
「 もちろんっ!道は一つしかないから!
  ――あ、でもちょっとだけ気をつけてね? 」
「 気をつける?なにに? 」
えむ
「 歌に引きずられると、
  心がぼんやりして道を外れちゃう時があるの。
  “心の奥に隠したもの”が溶けだしちゃうっていうか…… 」
こはね
「 っ…! 」
こはねの指が、さらに強く私の袖を握る。
一歌
「 心を乱す幻惑…そういう類のものですか 」
えむ
「 うん。でも大丈夫!あたしがいるもんっ♪ 」
軽い調子だけど、不思議と安心感があった。
えむの声は、“風歌の道”の旋律に負けないくらい真っ直ぐだった。
しばらく歩くと――
淡い光が道の左右からゆらゆらと浮かび上がる。
まるで、過去の記憶が光になったみたいだった。
こはね
「 …きれい…… 」
( …こんな場所に、“逃亡者と裏切り者”がいるなんて
  思いもしないよね…… )
一歌はその光を見つめたあと、ぽつりと呟いた。
一歌
「 ……歌って、怖いよね。 」
「 え……? 」
一歌
「 胸の奥に触るから。
  嬉しいことも、痛いことも、全部思い出させるから。 」
――その声は、どこか遠かった。
えむは振り返って、一歌の表情を見た後、
少しだけ切なそうに笑う。
えむ
「 ……大丈夫。一歌ちゃんは迷わないよ。
  だって、守りたい人がいるんでしょっ? 」
一歌
「 …! 」
一歌の視線が、こはねと私に向いた。
こはね
「 一歌、ちゃん…… 」
( ……優しいな、一歌って )
そんな中――
突然、道の奥から低い響きが伝わってきた。
こはね
「 っ…今の、何……? 」
えむ
「 …… 風歌の道の“門番”だよ 」
「 門番……? 」
えむ
「 ワンダー王国に入る前に必ず現れるんだ!
  “旅人の覚悟”を試すためにね♪ 」
一歌は剣の柄にそっと手を当てる。
一歌
「 覚悟、試す……ってことは、戦うんですか? 」
えむ
「 戦うというか…“心”で勝負するんだよね。
  逃げる気持ちとか、不安とか
  誤魔化したままだと門番に飲まれちゃうから……! 」
「 ……! 」
こはねの手が震える。
私はその手を包み込むように握り返した。
「 大丈夫。こはねのことは私が―― 」
その時。
霧の向こうで何かが動いた。
長い影、重い足音。
姿はまだ見えないのに、心を直接圧するような気配だけが迫ってくる。
一歌
「 来る…! 」
えむ
「 大丈夫。みんなで行こっ!
  門番は心を揃えた人は絶対傷つけないから! 」
( 心を、揃える…… )
こはね
「 杏ちゃん…怖い…… 」
「 大丈夫。一緒に超えるよ。 」
そう言った瞬間――
霧が割れ、門番の影がこちらへ踏み出してきた。
風歌の道の試練が、今始まる。
To Be Continued ……

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