足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
木々のざわめきが静まり、代わりにどこからともなく歌声が響いてきた。
柔らかくて、あたたかくて、
でも少しだけ、胸の奥を締め付けるような、不思議な旋律。

えむは両腕を広げて、まるで舞台に立つみたいにくるっと回った。


一歌は慎重に周囲をみながら、こはねの後ろに立つように位置を変えた。
その目はずっと周囲の警戒を続けている。
優しく……か。
今の私たちには、その優しささえ刺さる。
昨日、処刑台の影がこはねを覆っていたこと。
私が手を伸ばさなければ、彼女はもう――。
こはねは小さく頷き、私の袖を摘んだ。

こはねの指が、さらに強く私の袖を握る。
軽い調子だけど、不思議と安心感があった。
えむの声は、“風歌の道”の旋律に負けないくらい真っ直ぐだった。
しばらく歩くと――
淡い光が道の左右からゆらゆらと浮かび上がる。
まるで、過去の記憶が光になったみたいだった。
一歌はその光を見つめたあと、ぽつりと呟いた。
――その声は、どこか遠かった。
えむは振り返って、一歌の表情を見た後、
少しだけ切なそうに笑う。
一歌の視線が、こはねと私に向いた。
そんな中――
突然、道の奥から低い響きが伝わってきた。
一歌は剣の柄にそっと手を当てる。
こはねの手が震える。
私はその手を包み込むように握り返した。
その時。
霧の向こうで何かが動いた。
長い影、重い足音。
姿はまだ見えないのに、心を直接圧するような気配だけが迫ってくる。
そう言った瞬間――
霧が割れ、門番の影がこちらへ踏み出してきた。
風歌の道の試練が、今始まる。
To Be Continued ……











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!