第4話

第三章 ー 王国への道 ー
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2025/12/13 23:00 更新
森の奥へ進むにつれて、空気が少しずつ軽くなっていく気がした。
えむが先頭を跳ねるように歩いていくから、
こはねの緊張もほんの少しだけ和らいでいる。
こはね
「 えむちゃん、えっと…道、本当に大丈夫なの……? 」
えむ
「 大丈夫大丈夫っ♪
  あたしね、この森の楽しいところ、ぜーんぶ知ってるから! 」
( 森の楽しいところ……? )
私は心でそっと思いながらも、弾むえむの背中を見つめていた。
一歌はその少し後ろを歩き、警戒は解かないまま私達の様子を見ている。
昨日会ったばかりだが、
やはり現役騎士団が居ると妙な安心感があった。
「 一歌。進むペース、大丈夫? 」
一歌
「 うん、大丈夫だよ。二人の歩幅に合わせてるから。 」
その言葉に、胸が少しだけ暖かくなる。
( ……優しいんだよな、一歌って、 )
こはねが私の袖をそっと引っ張った。
こはね
「 …杏ちゃん…あの……さっきのえむ、ちゃんの言葉…… 」
「 …“逃げてるんでしょ”ってやつ? 」
こはね
「 うん…なんか…見抜かれてて……
  でも、怖く、なくて、すこし、ホッとした…… 」
( あぁ… )
こはねらしい。
“責められた”じゃなくて、“気づいてくれた”って感じたんだ。
「 分かるよ。あの人、変わってるけど…
  信用はできそうだし 」
一歌
「 えむ様は、いつだって全力だから。
  人の気持ちにも真っ直ぐ。 」
一歌も、どこか誇らしげに言った。
私達がそんな会話をしていると、
えむは突然、くるっと振り向いて叫ぶ。
えむ
「 ついたよーーっ♪ 」
こはね
「 は、早っ、!? 」
「 えっ、早っ!? 」
一歌
「 え、もうですか!? 」
えむが指したのは、苔むした大きな岩。
だかよく見ると、その裏側に小さな隙間があり、
そこから風が抜けている。
えむ
「 ここね、王国の秘密の“風歌の抜け道”なの! 」
「 風歌……? 」
えむ
「 うんっ♪この森ね、風が歌みたいになるの。
  だから、風の音を辿っていくと、抜け道がわかるんだ! 」
( いやそんなの普通わからなくない……? )
けれどえむは、当然のように笑っている。
一歌
「 えむ様。危険は? 」
えむ
「 ないよ♪……たぶん! 」
「 “たぶん”はさすがに危険じゃない? 」
一歌
「 うん、危険だね。 」
二人で即答すると、こはねがクスッと笑った。
その笑顔に、胸の奥がだんだん温かくなる。
( …少しだけでも、前に進めてるのかな。 )
えむが洞窟の入口に立ち、振り返った。
えむ
「 ささ、行こっか♪
  “笑顔の国”は、君達を拒まないよっ! 」
( …逃げ場……くれるんだ、 )
少し胸がざわついた。
信じたい。でも信じきれない。
そんな私の気持ちを見透かしたように
こはねが小さく手を伸ばしてくる。
こはね
「 杏ちゃん…一緒に、行こ……? 」
私はその手を握り返した。
「 うん、行こう。
  …信じられるかどうかは、これから決めればいい。 」
えむが笑って導いて、一歌が前を歩き、こはねが隣にいる。
私達は“風歌の道”へと足を踏み入れた。
逃亡の旅は――
少しずつ、“出会いの旅”へと、変わり始めていた。

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