第3話

第二章 ー 森に落ちた影 ー
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2025/12/13 08:00 更新
朝の空気は冷たくて、肌を刺すようだった。
昨日の混乱が嘘みたいに、森は静まり返っている。
こはね
「 杏ちゃん、おはよう…! 」
「 おはよ。こはね。ちゃんと寝れた? 」
頷くこはねの目の下には、少しだけ影が残っている。
でも、昨日よりは落ち着いた顔だった。
( 少しでも休めたなら良かった…… )
扉の外から、軽い足音が近づいてきた。
一歌
「 ……おはよう。二人とも、もう起きてたんだね 」
こはね
「 一歌さん…… 」
一歌
「 あはは、ちゃん付けでいいよ。 」
こはね
「 い、一歌ちゃん……、 」
一歌は少し息を切らしていた。
ただ事ではない気配を感じて、私は立ち上がる。
「 なにかあった? 」
一歌
「 ……森に、追跡者が入ってきてる。
  まだ遠いけど、痕跡があったんだ。 」
こはね
「 っ…! 」
一歌
「 落ち着いて、まだここがバレた訳じゃない。
  でも、このままじゃ危ないかも。 」
一歌の表情は昨日よりも硬い。
騎士団の顔になっていた。
「 ……私達は、どうすればいい? 」
一歌
「 森の北側に、古い避難道があるの。
  今のうちに出れば、見つからずに抜けられるはず。 」
( 逃げてきたのに……
  まだ追って来るっていうの……? )
こはねが私の袖をぎゅっと握る。
震える手を、私はそっと包んだ。
「 行こう。こはね、離れないで。 」
こはね
「 うん…… 」
一歌は頷くと、ランタンを消して荷物をまとめ始めた。
一歌
「 本当は一人で行動した方がいいけど……
  二人を置いていくわけにはいかないな、 」
「 ……危険に巻き込むけど? 」
一歌
「 巻き込まれるの、慣れてるから。 」
――強い。
強いけど、どこか寂しさを含んだ言い方だった。
避難所を出ると、朝の光が木々の間から差し込んだ。
その美しささえ、今は不気味に感じる。
こはね
「 杏ちゃん……も、森の向こうに行けたら……
  少しは、落ち着くのかな、? 」
「 絶対、 」
こはね
「 ほんとに……? 」
「 だって、私がいるから。 」
そういった瞬間――
ガサッ
森の奥で、何かが動く音。
一歌
「 止まって!! 」
私は反射的にこはねを抱き寄せ、一歌が前に出る。
とても、頼りがいのある背中だった。
しかし次の瞬間――
??
「 …………あれぇ?そこに誰かいるの? 」
聞こえたのは、殺意に溢れた声ではなく、
とても優しい、元気な歌うような声。
一歌
「 ……この声は… 」
木々の隙間から姿を現したのは――
薄い桃色のドレスを纏った少女。
その瞳はどこか遠く、どこか近く。
いつも笑っているような、泣いているような。
一歌
「 えむ様……? 」
こはね
「 えむ…さ……ん……? 」
( ワンダー王国の……?
  なんでこんな森の中に……? )
鳳えむ。
ワンダー王国のお姫様で、今は旅をしていると聞いていた。
えむ
「 みんなで朝から何してるの?
  ……迷子ごっことか、? 」
一歌
「 …ごっこじゃないです。えむ様、どうしてここに? 」
えむは首を傾げ、くるっと回った。
えむ
「 お姉さまに言われたの!
  困ってる人を見かけたらすぐに助けてあげなさいって♪ 」
さすが、寧々――
えむの姉で、歌姫として有名な人物だ。
( …やはり教育が行き届いているんだなぁ…… )
えむは私たちを順番にみて、表情を柔らかくして言う。
えむ
「 ねぇ。逃げてるんでしょっ? 」
こはね
「 …っ 」
「 どうして、分かるの、? 」
えむ
「 お目目が教えてくれてるよ?
  助けて欲しいって目だもん。 」
昨日の一歌と同じ……
心を見抜くような優しさ。
一歌
「 えむ様。今は説明してる時間がないんです。
  追跡者が森に…… 」
えむ
「 じゃあ早くしなきゃだっ!
  道案内なら任せてっ♪ 」
えむは森の奥を指す。
えむ
「 北に抜けるなら、普通の道じゃ危険だよっ!
  あたしが知ってるちょっと楽しい近道に行こっ♪ 」
( ……ちょっと楽しいって何…? )
一歌
「 …不安だけど、えむ様は嘘はつかない。信じて。 」
こはね
「 えむ…さん……頼っても、いいん、ですか……? 」
えむ
「 もちろんっ♪困ってる子を助けるのが、お姫様のお仕事だからね!
  あとあと、さんじゃなくていいよっ! 」
太陽を背に笑うその姿は、
“笑顔”を象徴とした王国を担うには十分すぎるものだった。
( ……頼ってみても、いい、のかな… )
逃亡の旅は――
思いもよらない新しい味方を迎えて、
まだ始まったばかりだった。
To Be Continued ……

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