朝の空気は冷たくて、肌を刺すようだった。
昨日の混乱が嘘みたいに、森は静まり返っている。


頷くこはねの目の下には、少しだけ影が残っている。
でも、昨日よりは落ち着いた顔だった。
扉の外から、軽い足音が近づいてきた。

一歌は少し息を切らしていた。
ただ事ではない気配を感じて、私は立ち上がる。
一歌の表情は昨日よりも硬い。
騎士団の顔になっていた。
こはねが私の袖をぎゅっと握る。
震える手を、私はそっと包んだ。
一歌は頷くと、ランタンを消して荷物をまとめ始めた。
――強い。
強いけど、どこか寂しさを含んだ言い方だった。
避難所を出ると、朝の光が木々の間から差し込んだ。
その美しささえ、今は不気味に感じる。
そういった瞬間――
ガサッ
森の奥で、何かが動く音。
私は反射的にこはねを抱き寄せ、一歌が前に出る。
とても、頼りがいのある背中だった。
しかし次の瞬間――
聞こえたのは、殺意に溢れた声ではなく、
とても優しい、元気な歌うような声。
木々の隙間から姿を現したのは――
薄い桃色のドレスを纏った少女。
その瞳はどこか遠く、どこか近く。
いつも笑っているような、泣いているような。
鳳えむ。
ワンダー王国のお姫様で、今は旅をしていると聞いていた。

えむは首を傾げ、くるっと回った。
さすが、寧々――
えむの姉で、歌姫として有名な人物だ。
えむは私たちを順番にみて、表情を柔らかくして言う。
昨日の一歌と同じ……
心を見抜くような優しさ。
えむは森の奥を指す。
太陽を背に笑うその姿は、
“笑顔”を象徴とした王国を担うには十分すぎるものだった。
逃亡の旅は――
思いもよらない新しい味方を迎えて、
まだ始まったばかりだった。
To Be Continued ……












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。