第13話

十三話
215
2023/03/29 01:07




濃い霧の中、緑色のランプも相まって不気味に感じる。


緑色のランプの光は水面に反射し、
濁った世界はまるで水面を境に別の境界のようだった。

あのときの恐怖が蘇りとても覗く気にはなれなかった。
……


その様子を隣で見ていた鬱先生はニッと頬を緩ませると私に声をかける。
華崎ちゃんは、名前なんて言うん?
華崎
え…、あ、あなた…です。
急に問われて少し動揺を残しつつ名前を言う。

へ〜…と少し意外そうに言う彼。
華崎
…あの、珍しいですか?
いや?、ちゃんと覚えとるんやなって。
華崎
え?



意味深にこぼした言葉に私は疑問を覚える。
上天さん
………
上天さん
故人、彼岸の人に近づけは近づくほど、自分を見失いやすいんよ。
華崎
…自分を見失う?
死神
まぁ言うたれば、名前忘れたり、
"自分が何者なんか"分からんくなるんよ。
華崎
え…?
上天さん
まぁ君は、気をしっかり持っていれば多分大丈夫やと思うけどね。



頬杖を付き、彼は舟が進む先の方を眺める。



私はみんなの話をあまり理解できないまま、
考えるのを放棄していた。




そういえば、この舟って、なんで動いてるの?
華崎
…、(死神さん…漕いでるわけじゃないのに…)
死神
ん?
華崎
あの……なんで動いてるのかなって…
死神
……あ〜、俺の力?
華崎
ち、力…
随分ざっくりとした答え…

でも私はそれ以上聞く気にはならなかった。



数学の公式と同じように、
"そういうものだ"と考えたからだろうか。


その意味を追求するようなことはしなかった。
死神
そろそろやで
華崎






霧が少しづつ晴れ、影がフッと現れる。



鮮明に映れば、まさにそこは和の真骨頂。
上天さん
ここからは気を引き締めぇよ。
華崎
は…はい…。


江戸時代を彷彿とさせる町並みや人々(?)の服装。

もっと先、奥の方では小さな鳥居や遠目から見てもとても大きい神社がある。


死神
ついたで。
『成れ果ての都』別名、神の遊び場
華崎
……神の遊び場?
そう。









船が陸に付き、続々と降りる中

わたしも続いて黄泉の国へと足を踏み入れた。
そろそろ沖に出た宝船も帰ってくる頃やし、集まってくるやろな。
華崎
え?


※宝船とは

本来ならば七福神が乗っている船ではあるが、このはなしでは漁獲業などの用途として使われていると思ってください












いまいち全容がつかめない。

一体何を言ってるのだろうか…。





ゾロゾロと歩く異様な生き物、人に似た化け物が歩いていく。


服は和服に、中には舞妓さんのような人もいる。

この光景は、さながら化け物が人間の真似をしているようにしか見えない。
お!、帰ってきた帰ってきた!
華崎
っ!



霧がかる方向を示す手の先を見れば、
薄っすらと黒い影が映る。


霧を割って入ってきたのは現実世界でもなかなかお目にかかれない大型船おおがたせん


見たことのない魚や海の幸に紛れて人のようなナニカを積んでいる。


半人半魚、神話として伝えられている人魚だった。

しかしその人魚も美しいとされている姿とは真反対、醜く歪んで、髪はバサバサ、まるで老婆だった。
華崎
………。
驚いた?
華崎
あの…あれ人魚…ですよね?
そうとも言う、ここでは半魚人やな。
美しいなんて真っ赤な嘘やろ?
華崎
………
上天さん
此岸に流れる噂や神話はほとんどがでたらめなんよ。いい例じゃ、半魚人やな。
上天さん
魚の尻尾に若い女性の上半身。
その見た目でとても美しく、甘い歌声を響かせる彼女らに、海の中へと誘い込まれる。
華崎
そ、うです。


地上……いや、此岸に伝わっている人魚伝説は、
上天さんの言う通りだ。


でも……、あれほどまで違うんだろうか…
噂は尾ひれがついてどこまでも変化へんげする。
漂う噂、神話の殆どが嘘なんて世も末よな〜…


しかし……、私は最初襲ったおばけは何だったのだろう。


彼女らは人魚ではなかった。


顔立ちは整っていて、それでいて人魚…ではなかった。
華崎
私が以前襲われた人達って…
死神
アイツラは「海浪人かいろうにん」っつって、三途の川で渡りきれず水底に沈んでいった奴等やで。



私の知らないこの世界は、
私が思っている以上に壮大で恐ろしい。

そう話していると、私達の上を何かが横切る。
華崎
え?!
死神
神々のお出ましか。


死神さんがそう言うと、彼らや歩いていた殆どの人が屋根のあるところへ避難していく。


避難しないものもいたが、私は意味がわからずポカンとしていた。

「こっち来とき」と言われ、有無を言わずに屋根の下に入る










ロボロさんは私のすぐ近くに寄り、
神々が来ると言われた方向を見つめる。





純白のうろこを携え、手足の鋭い爪を持つ、
長いヒゲを持った細長い生き物。


名を竜神りゅうじんと呼ぶ。




青い火の玉(魂)を側に浮遊させ、普通あるはずの目は無く、代わりに額に大きな目を持つ。

赤と白の締め縄を首に下げ、
真っ白な毛が青みがかっていて光を反射し白飛びしている。



名を琥珀こはく様というらしい。





他にも、目、鼻、などの器官を持たず口の部分だけが裂けている人型の生物 「カゲロウ様」


私達の世界で言う七福神に似た人たちも浮遊しながらおりてくる
彼らは多すぎて名前を持たないらしい
華崎
っ……
動揺するのも無理ないわw
まぁでも、これくらいで動揺しとったら、耐えきれへんかもな。
華崎
え?



空を舞う竜神が急降下し、真下には人が立っている。



グロ注意⚠⇓、苦手な人はごめんなさい!!by作者
上天さん
っ…


何が始まるのかと思っていた矢先、私の目を何かが遮る。
華崎
っ!、


手で隠されたようだった。

その手の主は上天さん。


覆いかぶさるようにして私の前に立っている。




そして何より、この動作と同時に聞こえてきた鈍い音。


飛び散る液体が地面にしたたる生々しい音。

バキッブチッ………

一体何が起きているというのだろうか…。






時々笑い声のような、それにすら似ても似つかない鳴き声が響く。

おそらく、神々の声?…なのだろうか…





ただ、目を隠されていても、ひしひしと伝わるナニカ。

恐怖を煽る生々しい音に体が震えた。
目の前で起きているおぞましさを物語っている。
今日も派手やなぁ〜。



何かが水面に落ちる音や、
ブチブチと繊維が両端の引力によってちぎれるような音。




兎にも角にも、とてつもない恐怖を感じた私は、
思わず上天さんに身を寄せる。
これ、なんで逃げへんのやろな。
されるがままやし。
死神
もっぱら、希死念慮きしねんりょ者やろうな。
やっぱそうなん?
死神
死にたいと願うもの以外、
突っ立ってなんていないやろしな。
まぁもう死んどるけど。
死神
まぁ言うて死んでるとて"心魂しんこん"はあるけどな。
それすらもいらんっちゅーことか。
死神
………。



辺りから足音が聞こえてきた頃、目に当てられていた手をどかされ

シュルッと上から何かを解く音がする。


怖くて目を開けられず、音だけ聞いていると

何かを顔にかけられ、後頭部で結ばれる。
華崎
上天さん
つけとき、幾分いくぶんかマシやろ。
華崎
え、でも、前が見えない…。
上天さん
大丈夫やって。手ぇ引いたるから。
へ〜、似合っとるや〜ん♡



見えづらくなった視界のせいで、
握られている手に感覚が集中する。
随分優しいんやない?
上天さん
え?
普段こんな優しないやん。
上天さん
………別にええやろ。
気まぐれや気まぐれ。
へ〜…。(ニヤニヤ


いつも雑面で顔を隠しているため、表情がわかりにくいが、
その壁がなくなっているからか心を見透かされているような感覚になる
上天さん
からかうんやないぞ!//



赤くなる頬を隠すように手を顔の前にする。
コネシマ
珍しいな。
なんやロボロ好きなん?
上天さん
な!…なわけあるか!///
上天さん
大体、"禁忌きんき"やろが!//
死神
はえ〜(ニヤニヤ
もしかしてロボロく〜ん。
上天さん
やッめろ(💢おまえ。
便乗びんじょうしてくんな!


目の前で繰り広げられているのは、
何が何やらわからないけど、置いていかれてるのは確か。
ちょっと気になる。(・ิω・ิ )





華崎
…、あの…さっきのは一体…
……、言ったやろ?
「神の遊び場」って。

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