第32話

699
2021/03/11 07:44
貴方side
次の日
昨日よりも熱気がさらに増している体育館内。
私の隣に中間先生が立った。
中間淳太
中間淳太
……俺はよくアイツから
散々いじられてた。
唇が明太子など
俺の似顔絵を黒板に書くなど
絶対に俺の名前を呼び捨てにするなど。
当時はホンマに鬱陶しかった。
……でも、今はちょっと恋しいな。
あなた

…先輩、淳太先生のこと
好きでしたよね。
この前1回写真届きましたよ。
淳太先生の顔写真。

中間淳太
中間淳太
まじか笑
消しとけや?笑笑
あなた

やめときます。笑
意外と似てましたよ笑

中間淳太
中間淳太
意外とってなんやねん笑笑
先生はそう言って笑ったけど
でもどこか心から笑えていなかった。
中間淳太
中間淳太
……声、聞きたい、な。
アイツからまた淳太って
呼ばれたいな。
一番最初に懐いてくれたんも
アイツやったからな。
あなた

………先生にとって

中間淳太
中間淳太
……ん?
あなた

先輩はどんな生徒でしたか?

中間淳太
中間淳太
………ある意味1番大事な生徒。
……やったかもな。
こっちも楽しく英語教えられたし。
色々感謝してる。
ほんまやったら……
卒業式で言うつもりやったんやけどな。
あなた

………卒業式。

私の呟いた声は
周りの歓声でかき消されてしまった。


昨日よりも盛り上がる体育館内。

ピアノに当たるスポットライトの色は
先輩のよく似合う赤色だった。





















大歓声が体育館内に響きながら
バンドのラストライブが終了した。

皆がゾロゾロと名残惜しそうに
体育館から出て行く。

私は体育館の壁に寄り添いながら
人の流れと反対にステージの方に歩いた。


ステージに行けば
ちょっと目が赤くなっている皆。

ギターを持ったまま智にぃが下に降りてきた。
神山智洋
神山智洋
……これから
あなただけの特別なライブを
開催致します。
あなた

……私だけの?

神山智洋
神山智洋
そう。
あなただけの。
あなた

……のんちゃんも一緒に?

神山智洋
神山智洋
そう。
俺らが頼んだんや。
あなたにサプライズしたくてさ。
あなた

…私への、サプライズ。

神山智洋
神山智洋
……あなたに
聞いてもらいたい曲があんねん。
あなた

……私に?何?

神山智洋
神山智洋
……しげがあなたを思って
作ったラブソング。
あなた

……っえ。

確かに言っていた。


私は勝手に思ってた。


この日のために作り終わらせると思っていたから
まだ出来てないって思っていた。
神山智洋
神山智洋
……聴いてな。
智にぃがステージに上ってギターを置いて
カホンという楽器に変えて
のんちゃんもギターからピアノに変わった。


智にぃの合図で始まった
私に向けたサプライズの曲。

綺麗なイントロを奏で始めたバンドの皆。

のんちゃんの歌い出しから始まったこの楽曲。

ちょっと高めのキーで作られたこの曲は
きっと先輩が歌いやすいように作られている。

先輩は今どこで聞いてるかな。

先輩なら今頃エアーピアノで弾いてるかも知れない。

歌ってるのかな。

私は先輩の声で
この曲を聞きたいよ。

私は先輩の声で
この曲を聞きたかったよ。


泣きたくなかったのに
心に残してくれた思い出と
事故前の先輩の言葉が思い出して涙が溢れた。

あの時の…
事故前の先輩の言葉と事故の瞬間が
それに事故前の私たちの行動が
この歌の歌詞があまりにもピッタリだった。

プリ小説オーディオドラマ