私は瞠目した。
さっきまで私の腕の中にあった、大切なノート。
小説のキャラ設定やプロットがたくさん書いてある、幻想の宝庫。
私の目の前で暴れるそれが、私の大切なノートだなんて、信じられない。
私は、悪い夢でも見ているのだろうか?
多くの人々が逃げていく中、私はその場から動けずにいた。
私のノートを模した怪物の手が、私に向かって伸びる。
危ない、逃げなきゃ。
そう思っても、足がすくんで動けない。
どうしよう。
早く、逃げないと――。
怪物の拳が、至近距離まで近づく。
私は反射的に目を瞑った――が、いつまで経っても痛みは来ない。
恐る恐る目を開けると、オレンジ色の長い髪を後ろで括った男の子がその拳を跳ね返していた。
まだ声変わりの済んでいない、中性的な声。
私を振り返って手を差し出す彼は、とても優しい顔をしていた。
年の頃は、私と同じくらいか、もっと下か。
私は彼の手を借りて立ち上がり、小さくお辞儀をした。
怪物――ランボーグというらしい――が再び暴れ出す。
彼は私を庇うように立つと、ランボーグに向かって高速で飛んで行った。
彼に体を貫かれたランボーグは、とても気持ちよさそうな顔をして消えた。
そこには、私のノートが何事もなかったかのように転がっているだけ。
彼が私のノートを拾い上げ、私に近づいてきた。
そう言って、優美な笑みでノートを差し出す。
……そんなところまで気にしてくれてたんだ。
心がじんわり温かくなる。
背を向けた彼に、私は呼びかける。
彼が不思議そうな顔で振り返った。
私は勇気を振り絞ってお礼を言う。
すると、彼は柔和に微笑んだ。
彼はそう言って去っていった。
私は腕の中のノートを見つめる。
彼はあんな風に謙虚だったが、私はきっと、この日のことを忘れない。
私は晴れ渡る空を見上げて歩き出した。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。