第59話

❤️第48話…「枯れゆく花」
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2026/09/18 10:32 更新
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今回は背景が真っ赤なので目の休憩をこまめにすることを推奨します。

針先が、蛍光灯の光を受けて光る。

首筋に勢いよく振り下ろされる。



…かに思いきや、黄色い影が飛び込んだ。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
えっ!?

プラスチックと金属がぶつかる乾いた音。

注射器は狙いを外される。だが、しっかりと碓氷先生は握ったままだった。
目の前に立ち塞がった黄色い兎は、俺に背中を向けて立っていた。
碓氷
碓氷
…まさか君に妨害されるとはね
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うさぎ…さんっ

それぞれの意味で、震えていた。

表情は見えないからわからない。
何で割り込んできたのかもわからない。
今となっては敵か味方かもわからない。

でも、縋るなら多分今だけ。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うさぎさん…!
碓氷
碓氷
馬鹿なことをしないで。勝手にそっちで結託されちゃあ困るんだよ

うさぎが日本語を喋るわけもなく、斧を振り回して碓氷先生に襲いかかった。
碓氷
碓氷
あぶなっ!?何してんの!

叱りつけるように素早くかがみ、直撃を避ける。風圧で新聞が宙に舞った。
続け様に斧を振り下るす。縦に、横に、体制が崩れたところを死角から回すように切り込む。人間みたいな動き。
しかし、彼は反射神経がとてつもないほど良く、全て紙一重で回避していた。
碓氷
碓氷
言うこと聞けないんだ。悪い子だね

俺は、見ていることしかできない。
かと言って、拘束を解かれたとしても、この体で走ることは不可能なのだ。

そのうち、戦況は変わる。
どっちが残っていたとしても、俺に突きつけられるのは不安だった。

注射器はしぶとく、斧を振り下ろす隙を縫うように狙っている。
あれが刺さったら…考えただけで、既に行方のわからない若葉色の髪の少年と、桜で染めたような瞳の少年が思い起こされる。
うさぎも、今は抗っている(かもしれない)だけで、どうなってしまうか定かではない。
碓氷
碓氷
…でもね、こっち優先なんだよね

気がつけば、俺と碓氷先生との距離は縮まっていた。
うさぎが、それに反応したのはコンマ数秒後。
しかし、それが大きな隙だった。

動けない俺の首筋に針が伸びる。
うさぎは、必死に斧を伸ばす。


秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
い゛ッ………!?

直撃は、免れた。

斧の先が注射器を弾き飛ばした。

しかし、鋭利なものは首を掠めたのだった。

赤い線が残る。それだけだった。

それだけだったのに。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
い゛やぁぁぁぁっ!?!?



即効薬か。

稲妻が身体中に襲いかかったような感覚。

首から胸に、胸から腹に、枝分かれして腕や頭に。

鐘を耳元で打ち鳴らされたかのように、部位に繰り返し痛みが響く。

暴れようにもできないから、やれることといったら耐えることだけだ。



うさぎが怒ったかのように碓氷先生を弾き飛ばした。

案外吹っ飛び、棚に勢いよく叩きつけられる。
振動で棚に並ぶ器具がいくつか落ちた。
碓氷
碓氷
くッ…!

うさぎは咄嗟に俺の拘束具を叩き壊した。

自由になるが、圧倒的に薬品に意識が押しつぶされかけている。

荒れた毛皮が触れた。

そっと抱かれる。

同時に、もうないはずの足に激痛が集中した。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
いだぁ……っ!?

忘れたかったその記憶は、傷となって現実を抉った。

あまりの衝撃に涙が飛び散った。

ぐちゃぐちゃに切り離されたはずの、両足の輪郭が見えた気がした。

あと、貼り付けられたような紅色も。




うさぎは俺を抱いたまま、数歩下がって距離を取った。

何で俺に限って助けようとしてくれるのかが理解できない。
それならふうはやたちにもそうしてくれよと言いたいところだった。
碓氷
碓氷
いってて…乱暴だなぁ
碓氷
碓氷
ねぇ、しゅうと君を返してよ

うさぎは答える代わりに、ぐっと腕に力を込めた。
俺もどうしていいかわからないから、きゅっと毛皮を握りしめた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
逃げて…
碓氷
碓氷
逃げる?僕から?あははっ
碓氷
碓氷
この地下で走り回って先に力尽きるのはどっちが先かなって話だよね
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
……っ

確かに、地下のことは何にも知らない。

もしかしたら何か情報を持っていたかもしれないと、個人的に思っていた年上2人は、もういない。
それに、この状況でうさぎに味方されたとて、何が起こるか予測できない。

下手に動けば、さらなる劣勢を招くだろう。

うさぎも悟ったのか姿勢を崩さず、ゆったりと起き上がる碓氷先生を睨んでいた。
碓氷
碓氷
その子はね、最もお肉を摂取してない
碓氷
碓氷
だからきっとふうはや君やかざね君とは違う結果が得られるんだよ
碓氷
碓氷
僕はそのデータが欲しくてたまらない
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ねえ…ふうはやはどうなったの
碓氷
碓氷
あ、知りたい?言わなくてもあれだけ暴食してたし何となくわかるんじゃない?

暴食というか。
…何かに取り憑かれたように、というか。
詳しい様子は見ることができなかったから、わからない。

…ただ、別れ際の虚ろな瞳ははっきりと記憶に残っている。
碓氷
碓氷
新聞にニュース載ってたよ。森の奥にある館に住んでいた貴族がみーんな行方不明だってさ
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…ふうはやの消息と何の関係があんの
碓氷
碓氷
ふふ、そこのうさぎに頼んで、変異した彼を森に放ったんだよ
碓氷
碓氷
そしたらこの通り

笑顔が恐ろしかった。

聞かなくても察してしまう自分を殴りたかった。

じゃあなに…ふうはやがその館に入ってその人たちを…

…ってこと、?
碓氷
碓氷
現場は血まみれだった、てさ。郵便屋さんが半泣きだったんだって

面白がるように注射器をくるくる回す。
全く面白くない。こっちからしたら悪夢そのものだった。

ふざけるな。

そんなことをさせて、何が幸せだ。
誰も、何も得なんてしないじゃないか。

恐怖より、怒りが勝った。
多分、りもこんも知ったらそうなると思う。
…いや、今の彼は…何にも考えていないのかもしれない。

じくじくと足の付け根を這い回っていた痛みは麻痺していた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…ふざけんな。何が、お互いのためだ
碓氷
碓氷
まだ子供だからわかんなくていいんだよ。そろそろ降りてもらおうか
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
嫌だ
碓氷
碓氷
そこば「はい」って従ってほしいのにね。ねぇ兎、いい加減離して

うさぎはふるふると首を横に振り、俺を片腕で抱いたまま残りの腕で斧を構えた。
碓氷
碓氷
…いいの?次は2倍って言ったよね
碓氷
碓氷
…促進剤

それを聞いた瞬間、うさぎがびくりと後退した。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え、大丈夫…!?

明らかに怯えていた。

まだ檻に居た時、碓氷先生が囁いたときと同じ反応だった。
よほど、身の毛がよだつものなのだろう。既に〝薬〟と言っている時点で俺もいいイメージは持てなかった。
碓氷
碓氷
怖い?
嫌なら、その子をあそこに投げ入れて
碓氷
碓氷
そうしてくれたら、逆らったこと許してあげる

痛めた箇所をさすりながら、大きな培養槽を指差した。
毛皮に包まれた身体が強張る。
初めて俺に視線を落とした。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…っ!

瞳は揺らいでいた。
碓氷
碓氷
選ぶ暇があるとでも思ってるのかい?

迫るように一歩踏み出す。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
………来ないでっ

じりじりと、距離が縮まる。

鼻にこびりつく薬品の臭い。

ぎゅっと、目を瞑った。



起こった判断は一瞬だった。

斧が一直線に飛ぶ。


向かう先は、碓氷先生…ではない。


あの、培養槽。

あれさえ壊してしまえば、とりあえず最悪な形は
避けられる。

最も単純で重要な隠れた選択肢だった。





…のはずだったのに。



やけに響く音だけを漂わせて、虚しく斧が落ちた。

せいぜい、培養槽に薄い一筋の傷を切り込んだだけに終わる。



その瞬間、完全にガラ空きだったうさぎの腕の中は、敵に渡った。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うわぁッ!?
碓氷
碓氷
残念だったね〜
僕が何も対策しないわけがないだろ?

蔑むような視線で舐めまわされる。
襟首を掴まれ、思わず咳き込んだ。


碓氷
碓氷
丸腰になっても、まだやる?

無駄だった。
武器を持たないうさぎは怯えたように彼を睨みつける。


勝敗は明確。


そのまま、動かなかった。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
……そんなっ
碓氷
碓氷
よしよし。
わかってくれたならそれでいいのさ

視界が強制的に揺れて傾く。
碓氷
碓氷
うわー、もう骨が見えてるじゃん。よく余命にも飢餓にも耐えたね〜

自分でもわかっていたつもりだけど、培養槽の表面にぼんやりと反射する俺の体は、痩せっぽちそのものだった。

肋骨がはっきりと浮き出ている。

顎の骨が、よく見える。

夜中、よく隣のりもこんに心配された。

…それを言うなら、心配なのはお互い様だよ。

自分の体調と、居なくなった仲間の行方に挟まれて、心なんか余裕で不安に押し潰される。




秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
わッ!?

盛大に水飛沫が上がり、同時にうさぎが悲鳴とも怒号とも判別つかない叫びを発した。
それも目の前の男になす術なく、虚しく天井に吸い込まれるだけである。
碓氷
碓氷
最期の言葉は残さないタイプなんだね。それはそれでこっちも清々しいよ

苦しい。そしてなんか苦い。

泳いだ経験がないからっていうのもそうだし、口に謎の液体が入り込んで呼吸を邪魔された。
碓氷
碓氷
なんだかんだでここに来てからしぶとく生きているし…3人と出会えてなんかいい感じに過ごせてるじゃん?

碓氷
碓氷
まぁね、友情も悪くないけど…


碓氷
碓氷
……一旦、忘れてもらうよ



冷たい宣告と共に、機械音が俺の訴えを遮った。

管が降りてくる。

あまりにも多い。

多すぎるんじゃないか。

余計に恐怖を煽った。



必死に顔を上げる。

うさぎの目が、少しだけ潤んでいるように見えた。

罪悪感なのか、後悔なのか。

どちらにしろ…責めることはない。

何にも悪くないよ…。



従わないと…どうなるかわからない。

ずっと、命令を受けるだけの日々を繰り返す。

俺も…いや、俺たちは今からそっち側に引きずりこまれようとしている。



目を開いた。

液体が瞳に容赦なく入り込む。

管が口を塞ぐ。



…俺……結局、こうなる運命だったのかな。

どうなっちゃうのか、わかんないのに。

わかってしまったら、おしまいかもしれないのに。 


うさぎさん…





…できることなら、





りもこんだけは……










甲高い笑い声と、血の滲んだ手で握りしめる拳、



そして、



何かを求めていた、赤い光。


何かが、いなくなるような。

そもそも、何がなくなってしまったのか。










紫色の宝石が見つめるのは、真っ暗闇だった。





薄暗い蛍光灯の下を歩く。

ひたひたとひんやりした足音。

俺をおんぶしているのは、黄色い毛皮の着ぐるみのような兎。 

唯一足のない俺は、こうやって連れて行ってくれた。

時刻はおよそ20時頃。

順番に、シャワーに行く予定だった。

兎は、無駄のない動きでただただ監視を務める。

逃げようとすれば一瞬で捕まえる。
かざねが経験した。

俺は他の3人よりも、この子に対する知識は少ない。

そもそも、学校では兎を飼ってるよねというおおまかな情報しか持っていなかった。

こうやって見るのは、初めてだった。

この肉体のおかげで、外掃除は何が起こるかわからない、と許されなかったからだ。

兎小屋を覗きに行く暇も、なかった。

薄暗いシャワー室に到着し、うさぎは電気のスイッチを入れた。

ぱちり、と明るくなる。 

ずっと、何も喋らない。

普通はそうだよね。

ただ、動物って繊細だから俺ら人間の感情は少しは読みとれるのかもしれない。

俺に服を脱ぐように手で促して、シャワー室に通される。

ご丁寧に椅子に座らされる。

手際よくカーテンを閉め、遮断された。

隙間から長い耳が見える。ずっと直立不動で待っている。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
……あの

うさぎは動かない。

しかし、片耳だけ微かに揺れた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うさぎさんは…シャワーしないの?

斧を取り落としかけたらしい。

いや…気になるじゃん。毛皮、汚れているし。

カーテンから顔だけを覗かせる。

うさぎは困惑したように、頭を掻いた。

あ、でも…こういう動物に水はストレスになるんだっけ。

自分で毛繕いをするから基本、大丈夫なのか。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…変なこと聞いたよね。ごめんね。
シャワー終わらせるよ

ちょっと恥ずかしくなって勢いよくカーテンを閉めた。

向こうからしたら、とんだ迷惑だったのかも。

生ぬるいお湯を浴びながら頬を叩いた。

痩せたから、余計に骨に響いた気がした。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うさぎさんはさ…欲しいものとかある?

場違いな質問二つ目。

俺は、無理矢理にでも自分の心を晴らしたかった。

うさぎはまた硬直した。
なんで伝わってるのかが不明。

水滴の滴る音だけが沈黙を無視する。

本当に、このうさぎが碓氷先生によって…

実験、とか…されちゃったのなら…今、相当辛いだろうなって。

全く他人事ではないのに。
俺もこれからどうなってしまうか知りたくないのに。

独りで、誰にも明かすことないまま…ここまで生きてきたとしたら。



少しでもわかってあげたかった。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…俺に足があったら、人参とか買いに行きたいのにな

濡れた前髪が頬に張り付く。

うさぎは無言で俺にそっとタオルを差し出した。



いつもなら自分で拭くのに。

今日は、赤ん坊をくるむかのようにうさぎに包み込まれた。

秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え、!?

素っ頓狂な声もふかふかのタオルに埋もれる。

数ミリ先に顔面があって再び悲鳴を上げた。

いきなりこんなことをされるとは予想していなかった。



ぽん



思ったよりも柔らかな感触が髪を撫でた。

よしよし、と宥めるかのようなその大きな手。

檻に斧を叩きつける手と同一に思えない。

理解しようとする前に、一番最初に反応したのは涙腺だった。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
な、に…

懐かしい感触。

あたたかい陽だまりのような。はたまた、ゆりかごのような。

ふうはやのお母さんからしてもらったような感覚に、すごく似ていた。

涙が止まらなかった。

同時に、知った。



このうさぎも、何かに飢えていたんだって。



無感情に動く生き物じゃないんだって。



ちゃんと、〝自分の意思で生きたい〟んだって。



思わず、微笑んだ。

気のせいかもしれないけど、うさぎも口角を上げた。

少なくとも、そう見えた。





ぬるいと思えたその体は、そのときだけとてもあたたかく感じた。



何これ…



走馬灯、?



よりによって、なんでこんな景色なんか…。



あれ…



なんで、ぼやけてるの…?





泣いてる…、?































冷たい風が空気をなぞる。



ごつごつした感触がすぐそこにある。



…ゆっくり目を開ける。



視界いっぱいに広がる夜空。



石造りの地面。



荒れた花壇と噴水。



錆びて動かないアトラクション。





あれ…





ここ、どこかで……、





きっと、気のせいだよね



節々に広がる頭を堪えて起き上がった。



自分の軽さに恐怖を抱く。

感覚が、ない。



なにこれ。





ほ…ね…、





…骨?





これ、夢かな。
それとも、これまでの景色が夢だったのかな。

骨同士が擦れ合う。



指の骨。角ばっている。

背骨。まだ弱い。

頭蓋骨。脳みそがない。

肋骨。すっかすか。

足は…





当たり前かのように、なかった。

次に気がついたのは、真っ黒な布を纏っていること。

そして、そばに落ちている巨大な…鎌も。

俺…こんなもんだっけ。

雑に記憶が途切れているような。

吸い込まれるように鎌を拾い上げた。

重い。…けど、なぜか手に馴染む。

好奇心で、ちょっと振ってみる。体が軽いので、当然引っ張られてバランスを崩す。

…、危ないことは無闇にしないほうがいいな。


今更、自分の体が浮いていることに衝撃を受けた。

そのうち、もう何にも驚かなくなってしまいそう。



辺りを見渡す。

古びた遊園地。スタッフすらもいない。

手入れされていないのだから、随分と放置されていたのかもしれない。



不思議だった。

空っぽのはずなのに、何故か思い入れを感じる。


何かあったっけ。 



そもそも…来たことあったっけ。



この姿で行ったら人間に見つかるのに。



でも、体が若干覚えているのだ。



思い出せない。



頭を押さえて、アトラクションを一つ一つ確かめていく。



表面にヒビが入ったメリーゴーランド。

レールが途切れたジェットコースター。

苔まみれになった石造りのダンジョン。



…はっきり思い出せたものはない。

やっぱり勘違いなのか。

今まで、この鎌を振り回して…何かを狩っていたんじゃないのかな。

ガラス張りの小屋に近付く。

霜のついた表面にぼんやりと、その姿を映し出す。



…〝死神〟。



自分でも、そう確信できた。

驚きはしなかった。きっとこんな体だったのだろう、と言い聞かせる。



はらり、と風で、何かが捲(めく)れる音がした。



思わずその方向を見る。





最初はボロボロの案内マップが剥がれたのかと思った。





そうじゃない。






もっと





重くて



重くて




蓋をされていた。











しばらく、声も出せずに見つめていた。



地面の膨らんだ部分。





工事の跡だと思って気にとめていなかった。



…違う。

吐き気が込み上げた。

もうないはずの目頭が熱くなる。



土からはみ出した、ブルーシートが裏側になっている。



ハエが集(たか)っている。





違う。

違う。

違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う
 


なんで。


嫌だ。

嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ



待って。



待ってよ。





なんで…



















死神しゅうと
死神しゅうと
なん、で………




死神しゅうと
死神しゅうと
そのまま…なの

吐息に近い断末魔。


ガラスが砕け散るように、俺の精神は正常を保てなかった。



同時に、記憶の霧が一部晴れた。



もう、



知っている大切なあの微笑みも、空気も、今はどこにもない。



今や、はみ出たそれが俺の心を最も抉った。



いつか見た夕焼けは、綺麗だった。



儚い美しさを残して。



大切な存在は、ここに、眠っていた。



嗚咽を漏らす。耐え切れるはずがない。



こんな形で、再会した。



一番酷い形だった。

一番美しい形でもあった。

そして、一番残酷だった。



置いて行かれた、赤い花。

愛情を得られずに、静かに枯れていく。 



彼らを見下ろす廃れた観覧車





刻み込まれたかのように、

ゴンドラは一つだけ欠けていた。




















記録



実験体 No.0809



対象:人間



年齢:9歳



名前:緋景 秋灯










強く反応した部位:足の付け根



















変異:死神










スクロールお疲れ様です。
第48話もお読みいただき、ありがとうございます。

次の第49話にて、第2章の固定🐻‍❄️さん視点は終了になります。

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