どれぐらい走っただろうか。
もう、何も考えられないくらいだった。
家に戻るとただいまと偽りの笑顔で妹が言った。
パチン!!
その瞬間私の中の何かが切れた。そしてふと下を見ると頬を赤くした妹が涙目で私を見ていた。
「大丈夫!?」
母が言った。
パチン!!!
また音が鳴り響いた。さっきよりやや大きい音が。
その瞬間私の左頬がじんじんと痛む。頬を叩かれたのだ。
そのあとは妹に何してるのだの姉だろだのなんだのかんだのぐちぐち言って母は私をおいてリビングに行ってしまった。
頬をつたうこれはなんだろう。込み上げてくるこの感情はなんだろう。いつの間にか私は、私の知らないところで私では無くなっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!