どこか焦っているような、そんな弟の声。
私と男子の姿を発見すると、ズカズカとこちらに歩みよってきた。
普段よりも、かなり低い声。
その声で、弟はかなり怒っているものと示される。
私に覆い被さるようにしていた男子は、怯えたようにびくりと震える。
弟はこちらに向かって歩きながら、ドスの効いた声で言った。
お望み通りにしてやるぞ?と言いながら、弟は右の掌を上に向け、冷気を出す。
彼はか細い悲鳴を上げ、私から離れる。
が、弟は逃げようとした彼の胸ぐらを掴み、正面から睨みつけた。
彼の言葉に、弟の目付きがさらに鋭くなる。
弟の言葉に、彼は観念したようだ。
彼は、私に告白したこと、振られた腹いせになにをしたのかも、全部話した。
弟は低い声で呟きながら、ため息をつく。
その瞬間、胸ぐらを掴んでいた手を離し、雑に彼を床に降ろして顔をよせる。
それからなにかを呟いていたが、声が小さすぎてよく聞き取れなかった。
が、相手の顔が真っ青になる。
恐ろしいものを見るような目で弟を一瞥すると、相手は慌ててこの場から離れていった。
なに言ったんだろ。
でも、助かった。
安心したせいか腰が抜け、私はぺたりとその場に座り込んだ。
弟が慌てて駆け寄ってきて、私の前にしゃがみこむ。
そう言いながら、弟は自分の人差し指で、私の目じりに残っている涙を拭う。
私はふるふると首を横に振り、否定する。
思わず弟の服の袖を掴む。
なんで掴んだのかは、自分でもよくわからない。
ただひとつ確かなことは、今は私から離れないでいてほしい。
それだけだ。
座り込んでいる私の体を、弟は包み込むようにして抱きしめる。
その言葉に答えるようにして、私も弟の背中に腕を回し、抱きしめた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。