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第4話

かの昔、未来を描きし日 -3-
9
2024/09/12 15:43 更新
 水口 晶は幼少期からエネルギッシュで好奇心旺盛な子どもで、外で遊ぶことが大好きだった。公園や遊び場での冒険が彼の日常であり、その活発な性格は周囲に笑顔をもたらしていた。

 


 しかし、家庭内では彼の両親が非常に厳格だった。両親は晶に対して、常に高い成果を求めていた。彼が家で遊ぶことはほとんどなく、家庭内での時間は勉強や自己啓発に充てられていた。両親の期待は大きく、彼に対して「もっと頑張らなければならない」と常にプレッシャーをかけていた。




「晶、宿題はちゃんと終わったの?あなたは常に優秀でありなさい 。」



「お前は何をするにも一番を目指さなければならない。」



 
 両親の言葉は、晶にとって常に心の中で響いていた。彼は遊びに行くよりも勉強に集中し、家庭内での厳しい環境に応えようとしていた。


 その期待は、彼の内面に深く根付き、彼が自分の目標に向かって努力する動機となっていた。







 その後、高校に進学した水口 晶は、ついに自分の芸術的な才能に目覚めることになる。
 高校の美術部に入ったことで、彼の持つ独特の感性が花開いた。周囲の人々からの称賛を受け、彼はその才能をさらに伸ばしていった。



 美術部での活動を通じて、彼は自分の芸術的な力を発揮し、成績も良好であった。彼の元気で活発な性格は、部活動においても周囲を引っ張る存在となり、他の部員たちとの絆を深めることができた。





「水口君の作品、本当に素晴らしいよ!」

「すごいな、晶。君の絵はいつも心に残る。」





 こうして、幼少期からの厳しいプレッシャーが彼を支え、美術への情熱へとつながっていった。家庭での経験が彼の力となり、高校での成功を導いたのであった。







 その後、美術大学に進学し、自身の技術をさらに磨いていった。



 大学時代、水口は水墨画と水彩画を組み合わせた風景画で注目を浴びた。作品は高く評価され、彼の自信を深めることとなった。
 しかし、卒業を間近で開かれた個展初めての批評が彼の心に深い傷を残すことになる。





教授: 「僕はこれほどまでに酷い作品を見たことがないよ。君の作品には技術的な問題が目立つ。君が描くものは、君自身の生活や心情が表れすぎている。もっと客観的な視点が必要だ。」




この言葉に対して、水口は強い反発を覚え、感情を抑えきれずに反論した。




「あんたは描けないだろう」



 拳を握り締め、絞り出すように言い放った。それを聞いた教授はまるで余命を宣告する医師のように言い放った。











「君、才能ないよ」











 自暴自棄になった水口はよく仲間を飲みに誘った。そして話の大半は水口の過去の自慢話と批評をした教授への不満だった。
 次第に、周囲の人々も引き気味になり、大学での友人たちも次第に彼から離れていった。



「ごめん、水口…。ちょっと、もう無理かもしれない。」

「正直、ちょっとついていけない。」






 大学を出てから初めてな個展。
 高校時代の美術部の顧問も来ており、少し緊張しながら、準備を進めていた。
 久しぶりにあった先生は、白髪が増えていた。それでも昔と変わらない先生に安心感を抱き、意を決して話しかけたが水口子予想していない言葉が彼の口から発せられる。




「水口君、君は何が描きたいのか、もっと自分に問いかけるべきだよ。
 残念だよ、君の才能がこんな風に終わるなんて。」






 この言葉が彼の心に深い傷を残し、彼の内面的な葛藤が一層強まった。


 彼はその後、高校時代の友人たちとの関係も断絶し、孤立していった。



 しばらくして、彼はフリーターを経て、就職するが、過酷な労働環境により心身ともに疲弊していった。毎日、長時間パソコンに向かいながら、外の暗い景色を眺めると虚無感が押し寄せる。



「水口、お前はもっと効率よく働け。こんな仕事もできないのか?」



その言葉に対して、彼はただ頭を下げて謝罪するしかなかった。彼の心の中には、疲労と無力感が渦巻いていた。

「すみません…」



暗い部屋で一人パソコンに向かい合いながら、彼は毎日がただの繰り返しであることに気づく。

あぁ、今日も家に帰れない。


 太陽が上がっている間は頭を下げ、沈んだ時には暗い部屋でパソコンに一人向かい合う。



その生活は彼にとって日常になりつつあった。







疲れた






暗闇の中また虚無感と孤独感に包まれていった。







 過去の絵は、彼にとってまだ終わっていないという証でもあった。絵を捨てずに取っておくことで、自分がまだ終わっていないという思いを持ち続けていた。
 しかし、ブラック企業での長年の勤務によって、その思いも次第に薄れていった。




「これも、あの時の…」





彼は過去の作品を見ながら、少しずつその思い出が遠くなっていくのを感じていた。彼がかつて持っていた熱意は、今ではほとんど忘れられている。

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