私の部屋のノックの音がした
入ってきたのはお母さんだった
渡されたのは美大のパンフレット
ある日の放課後。
私は彼と2人で勉強をする合間に絵を描いていた
昨日の記憶がなくても
絵は上達するって
こんな状態の私でも
何かを続けることができるって教えてくれたんだ
この目に映った元貴くんを
明日の私に見せてあげたい
その一心で彼を描き続けた
彼は私の毎日に一筋の希望を与えてくれる
私の1日は、絶望的な気持ちで始まるのに
彼と一緒に過ごすうちに、幸せな気分が満ちていく
蓄積されない記憶と、残っていくかもしれない何か
日記の中の私は、彼のことを本気で好きになっているみたい
そして私は_____
今日も彼に会いにいく
「昨日の私の分まで楽しんできてね」
彼の背中を見ると、消えてしまいそうで
私は彼の手を握った
また幸せが溢れて、私の記憶が追いつかなくなる
こんな大事な一瞬も
私は忘れてしまう
この温もりも
私は忘れてしまうんだ
元貴くんが私の涙を拭う
彼の唇と私の唇が重なる
それがキスだとわかるまでの時間は容易かった
お願いです
人に出来るだけ優しくします
わがままも言いません、だから
これからも、彼のそばに居続けられますように















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!