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第3話

1 イケニエ
3,805
2020/10/03 07:46
 この村では、百年に一度年頃の娘があやかしの長に捧げられる。
 三人もいるあやかしの長の唯一の花嫁として可愛がられるのだ。


 彼女たちはイケニエと呼ばれ、捧げられる前の三日間を身を清めて過ごす。
 誰とも会うことを許されず、純潔を守ったまま一人小屋で過ごすのだ。


 今年の不幸な少女は真理だった。

 三日間を終えた彼女は今宵、あやかしに捧げられる。



 濡れ羽色の髪は月に照らされて輝き、意志の強そうな瞳を長い睫毛が縁取る。
 桃色の唇はまだ16ながら、妖艶さが匂う。
 白磁のような肌には傷ひとつなく、誰もが振り返る蠱惑的な美少女だった。



「真理……真理……」

 行かないで、とは村のために言えないのだろう。
 真理が行かなければあやかしたちは村を襲うのだから。
 それでも悲しんでくれる両親と最後の言葉を交わす。


「大丈夫。二人とも、心配しないで」


 真理はあやかしたちに好き勝手されるつもりは毛頭なかった。
 瞳がきらりと輝く。
 彼女は村一番の美少女で、村一番に気が強かった。
「真理ーっ! 無事に帰ってこいよーっ!」

 幼馴染みの総司が真理に手を振る。

「うん! あやかしなんて怖くない! 退治してやるわ!」



 真理には秘策があった。
 真理はこの村出身だが、父は村外からやってきた人である。

 真理と母、総司しか知らないが、真理はあやかし退治……退魔の血を引いていた。
 幼い頃に習った退魔の心得は今も真理の胸の中にある。


 村人たちは何も言わない。
 真理が不躾な発言をしたとしても、それを許す許さないはあやかしたち次第であり、変に逆らってあやかしの花嫁を怒らせてはいけないと理解しているのだ。


「それじゃ、行ってくるわ」


 真理はそう言って彼らを一瞥し、勇猛果敢にあやかしの住む森へと足を踏み入れた。




 だけど、まだ。
 真理も総司も知らなかったのだ。


 あやかしたちがどのようにして、イケニエたちを可愛がるのか──。
× × ×


「かぁわいっ」


 小さな蛇がコロコロ笑い、


「……そうか? ブッサイクだろ」


 冷たい鬼が見下ろして、


「真理は、とっても良い子だよ」


 狐が、鳴いた。



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