第6話

シバかれ・入門編
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2025/09/05 04:04 更新




ギャンギャン泣き喚くクソガキを前にして俺は体が固まった。

幼い頃の滝夜叉丸を思い出す…この何とも言えない頭に何かが伸し掛かるような不快感。

…これだから泣き虫は嫌いなんだ。

逃げようか暫く迷ったが…滝夜叉丸が、俺が出ようとしている戸とは別の戸の前で正座をし、いつでも土下座ができるよう準備をしているのを見てしまって。



……………俺に従順すぎて逆に心配になるな、

…と、仕方なく弟を呼び戻し、俺はクソガキのところに少しだけ近づいて声を掛けた。



「ア゛ア゛ーーーーーッ!!」

『………少し叩いただけだろ、』

「さっき自分で“いい音がなった”って言ってませんでした〜?」

『何だお前、』

『…………なぁ、おい、泣くな…うざったいぞ、頬を叩かれたくらいで…、叩いても叩かずとも元から代わり映えせん顔だろう…?許せ。』

「ゥ゛ア゛ァ゛ーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」

『ゲッ…五月蝿くなりやがった…』

「自分があんなこと言われたらもーっとうるさいでしょうに」

『…先程から何なのだお前は!!煩い上に汚らしいじゃないか!!寄るな!!』

「一年い組の綾部喜八郎でぇーす、汚れてるのは落とし穴を掘ってきたから。それに悪いですけど誰も先輩になんて寄りたくありませんよーだ。」

『ク…ソガキが…………』

「兄上!!滝夜叉丸は一人ですから複数の揉め事を同時に起こさないでください、!!」



うねり髪が特徴的な、ちっとも悪びれる様子のないガキに向けて拳を握りしめていたところで、滝夜叉丸が俺を叱る。

兄上の代わりに謝れないではありませんか、と、一端に真面目な顔をして俺を説教してるつもりな弟が滑稽で、クソガキに腹を立たせることも忘れ笑ってしまいそうになった。



『くっ…クク……ふぅ…そうだなぁ滝夜叉丸、悪い悪い』

「キミ…そんなんでいいの?」

「はぁ…?」

『ふはっ…いや、いいんだ俺の滝はこれで。口を挟むな土塊。』

「つちくれぇ…?」

「土くれがわからないのか?土塊とは言葉の通り土の塊のことで、要するに兄上はお前を馬鹿に…」

「いや知ってるけど。兄弟揃って性格悪っ」



べぇ〜、と意味のわからん声を出したかと思うと目の下に指を当て舌を突き出すクソガキ。

何だかよくわからんが捻り潰してやりたい。

俺を止める滝夜叉丸がいなければ第二回戦が始まっていたというのに

何処からか出現した細長い何かによって足を絡め取られ、体勢を崩しそうになったところで頭に木製の棒が降り落とされ…気付けば俺は床に叩きつけられていた。



『ガッ……』

「兄上ーーーー!!!」



着地点が畳とは言え顔面から床に衝突したのだ…、痛い、鼻…鼻が折れたらどうするつもりだ…っ

俺はどこに出しても恥ずかしくない美丈夫だが!“美”が強すぎるせいか体はそこまで丈夫ではない!!!

鼻の…いや、俺の美しい顔の心配のため、震える腕で少しばかり床に面した体と顔ごと持ち上げていると間の抜けた会話が聞こえる。



「あっ、そう言えば先程脳震盪を起こしていたんだったか、頭を狙うべきではなかったなぁ勘兵衛、失敗してしまった」

「白々しいぞ清右衛門…頭以外を狙う気などなかった癖に」

「ハハ。…まあいいんだ、逃げ出した問題児は確保できた」

『う゛……………あ゛っ、!?貴様はッ!!!』



もう少しで腕立て伏せの要領で起き上がれる、というところで急に体が浮き上がり、不安定な細い支えが俺の腹を押し上げる。

昼飯がまだでよかった、と薄ぼんやりと考えていたが、何やら固い腕が腰にまわり俵担ぎをされていると気付く。

するなら丁重に姫抱きにしろ!誰が“俵”だ、おたんこなす!

状況を少なからず理解し苛立ちながらも視界に入るのは…男の薄い桃色のような、、

…いやドブだな、ドブ色のふわりとした髪の毛と濃い紫色の忍び装束だった。



「敬語を使いなさい」



『貴様!!降ろせ、俺を誰と…心得る!誰がお前など敬うかドブ髪!顔も胡散臭い!!暴力妖怪!!!離せ降ろせ無礼者!!貴様に敬語など死んでも使わん!!!』

「………じゃあ一度起きれなくしてやろうか?」

『はっ、できるものならやってみろ!!………滝夜叉丸に。』

「えっ」

「可愛い弟じゃないか、安々と売ってやるな」

『い゛ッ…!?だだだだだ!!!』



ジタバタと暴れながら鳩尾に膝でもぶつけてやろうとしていると片足を掴まれ、膝関節の可動域を越した方向へ曲げられる。

このままひと思いにグッと押し込まれれば鳴ってはいけない音が鳴りそうな、。この男なら俺の膝程度どうとも思っていなさそうだ…押される…これ以上暴れたら押しこまれる…!!

まあ…ここから足を動かそうとするとさらなる激痛が走るので大人しくせざるを得ない…が、しかし怒りは冷めやまぬ。

男の肩を支点に腹ばいになっている俺はできる限り振り返ろうと腰をひねり背中を仰け反り、空いている手で男の後頭部を殴ろうとしたのだ。

…だがとっくに気付かれていたらしく、男の片手に握られていたあの長い棒の先端が俺の眉間を打った。



『痛゛っ…!』



頭の揺れる衝撃で男の肩の上で脱力してしまう。くそ…脚が痛い、まだ押し込もうとしてる!取り敢えず離せ、!

弱々しくだらけた腕に力を込め握りこぶしを作り、男の背中を五歳児の肩叩き程度の力でしか殴れない自分に腹が立った。

そんな俺を見てこの男は嬉しそうに笑う。

笑うな…、髪の毛毟るぞ…。

残った力で髪を引っ張ってやろうとしたが、くるりと回転した棒が故意的に俺の顎を穿ち、今度こそ脱力した…。

痛い…痛い…、俺の腰を掴む手すらも容赦なく、強い力で男の肩に向けて押さえつけられているせいで気持ちが悪い、吐いてしまいそうだ…。そんな俺は美しくない、。



こ、今回だけは抵抗をここまでにしてやろう…と気を紛らわせるために周りの一年に目を向けた。



…俺が叩いたガキがいつの間にか泣き止んでいる。いや、若干引いている。

お前が泣いたせいだぞ…。だが俺もここまでされるとは思わなんだ。俺が体を張ったのだからお前に対する謝罪は必要ないな…。

滝夜叉丸は…慌てている、様なのだが。
…嫌な予感がする、こんな胡散臭い顔した暴力男に何故そのように目を輝かせている…?目を覚ませ、助けろ滝。

もう一人のクソガキは教師が早く来ないか待っているようで、俺と目が合えばわざとらしくそっぽを向く。



『クソガキ…が……、おぼえていろ…』

「聞こえませぇーん」

『ぶん殴ってやる…降ろせ、!』

「これ以上問題を起こす気か?少しは置かれてる状況というものを理解したらどうだ。

お前の細い脚程度俺は簡単に折れるぞ?」



脅しを受けた。此奴はクソ野郎か。既に折りかけてるだろう俺の膝。

こういう類は大体、ただの脅しに過ぎん…。

今までだって俺が何を言おうと騒ごうと…“目に入れても痛くない”程に美しい俺に結局度を越して酷い事をした者など…教育的指導を俺に行った父上を除いて居ない!

故に俺は屈しない…。平家の者は弱くないのだ、ニヤけ面のお前に臆しているようでは成長できない!



『すぅーー…黙れハゲ!!』

『…………い゛ッ゛、!?!?!?』



正直に言う、冷や汗が止まらない。

ミシッ、っていった。みしって。俺の脚から。

それになんでずっと笑顔なんだ、初めて会った時から笑顔だ此奴、あの時も得体の知れない不安感が押し寄せてきていた。



「な、勘兵衛、面白いだろコレ」



玩具のように俺を見るこの男が憎らしい、憎らしい!しかし焦って呼吸もままならないまま俺は言葉を紡ぐ。



『今すぐおれの御御足から手をっ…てを離せ馬鹿!ばか!!!痛い折れる!あ゛ー!!痛い゛!!!!!』

「本当に折ったら泣くかな」

「やめろよ清右衛門…」

『たっ……、ぐっ…ぅぅぅ゛…!!』

「なんだ、弟に助けを求めないのか」

『弟に助けられる兄など美しくない!!!!!』

「うんうん…そうだなぁ、じゃあ一人で頑張れ」

『(ッ死ね…!)』



脚と胴が一直線にならねば痛みが増すから、ずっと背を反り続けていて背筋が限界だ、。

なのにこの男は俺を固定する腕の力を緩めるから、男の服に必死にしがみついていないと落ちた時に掴まれている脚が千切れる気がする、手が白くなるほど力を込めていて二の腕が震える。



誰でもいい助けろ、今すぐ。

でないと次の苦痛が来る、この男、片手の棒を使って俺をどうしようか悩んでいる、俺にはわかる。

なす術のない俺は、恐れていたが今は待ち焦がれていた者の登場に一瞬だけ喜んだ。



「コラァァ!!!桜木!!!!」

「二年い組実技担当教師の木下鉄丸先生、こんにちはどうされましたか?」

「爽やかな笑顔で場をしのごうとするな!七松のせいでまだ授業に出ていないが俺の生徒に何をしている!!」

「違うのです木下先生、実は角々鹿々でして」



なんだそれは、かくかくしかじか…?

馬鹿なのか、と思っていると今度は教師に殴られた。



「平影夜叉丸!後輩を虐めるな!!」

『今ッ!!後輩を…いじめているのは…はぁっ…この男だろうがッ゛…』

「ん…?それもそうか………桜木!!!!」

「チッ…、」



舌打ち。何故バレない。教師の頭が悪いのか耳が悪いのか。

こんな胡散臭い男、誰が信じる。と思っていたのだが、やけにスルリスルリと話を信じ込んでいく教師。

体育委員会顧問の別の教師の名を出し逃亡を成功させるこの男。

部屋を担がれながら出て行く際に滝夜叉丸がついてこようとしているのが見えたが、この男、それに気付いて全力疾走をしやがった。



『…何故…そんなに…性…格が、腐敗しきった肉以下、なんだ…?』

「よく話せるものだなぁ、影夜叉丸、お前の根性に免じて額を弾くのデコピンで許してやる」



免じていないだろうそれは。器が小さい奴。心底嫌いだこの男。

…それはそうとなんだか先程から鼻血が止まらなくなってきた。頭がぼーっとする。



これから委員会がある度にお前と会える、だとか、敬語、接し方、一から教えてやる、だとか、

脚を離してやるからここに名前を書け、だとか、

名前を書いている時だけ一時的に畳の上に座ることが出来たがまたすぐに担がれた俺、だとか…。



地味に高いところから誰が用意したのかわからない敷布団へ落とされた俺は

…最後に何か捨て台詞を吐いたのだが、額を、男の中指で弾かれて、忘れた……、多分…眠った…。。。












「田村三木ヱ門、兄上の代わりに謝罪する、“許せ”」

「そんな謝り方で許すわけないだろう!!……と、言いたいところだが……大丈夫か…?お前の兄君…」

「頭大丈夫かなぁ〜」

「頭部の外傷についてだと受け取るからな綾部喜八郎」



「兄上のことは心配だが…あの方は一体誰なのだ?優雅で美しい方だったな…!!!」

「兄が目の前でボコボコにされてたのにすぐ動かなかったのはそれのせいなんだ」

「立ち居振る舞いを真似れば私もあの方のように優雅で強く美しい忍たまになれるだろうか!!」

「知らな〜い」



平影夜叉丸の悩みが、一つ増える瞬間であった。




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