昔の話か……そういえばパパもね、若い時は好きな人がいたんだよ。パパの行きつけのカフェによくいた子でさ。
その子はいつもコーヒーを飲みながら本を読んでたんだけど、たまに楽しそうに笑うのが可愛いんだよね。でも……そうそう、同じ学校とか同じ会社とかじゃないから、カフェに行かないと会えなかったんだよ。
話しかけたいけど勇気はなくて、でも顔は見たいから毎日毎日そのカフェに行ってたんだ。そしたら1回、その子と話せた日があったんだよね。
レジに行ったらその子が先に並んでて、こんなに近くに来たのは初めてだなってちょっと嬉しかったんだけど、その子が店員さんに「財布がない」って行ってるのが聞こえてきてさ。
それでパパが咄嗟に「僕が一緒に払いますよ」って言っちゃって。ふふ、優しくないよ。その子の前でカッコつけてただけだし。その後……
「ねぇ。パパ、それどういう話?」
「パパとママの馴れ初めだよ」
「……なれそめってなに!」
「えーっと、ママと結婚したきっかけかな」
そうじゃない!と、娘は布団の中でバタバタ抗議していた。娘が父親に寝る前に聞かせて欲しいと頼んだのは、両親の馴れ初めではなく『昔々あるところに』の方の昔話だ。
「続きは聞かなくていいの?」
「……やっぱ他の絵本がいい」
「そっか……まだこういう話は難しいかな」
娘がもう少し大きくなったら続きを話そうと決めながら、父親は近くの棚から娘のお気に入りの絵本を取った。今夜はいつ眠れるだろうか。

昔話とは言ったけど今もママのこと好きよって話ですね^^











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!