お風呂✄-------------------‐✄
こんなにゆっくり湯船に浸かれるのは久しぶりだな。
最近はずっと任務続きでまともに休めてなかったから
けが人が12人も居るもんだからボスも気を使ってくれているのだろう。
生活費跳ね上がったけど…
実は過去に何度か弟子をとったことがある。
別に私が弟子が欲しくてとった訳じゃない。
全員私が助けたヤツらだ。
でも、全員死んだ。
私が力不足だから、私が不甲斐ないばかりに死んだ。
だから、もう弟子はとらないって心に誓った。
私のせいで助かる命が消えていく。
そんなのはもう嫌だ。
でも、ヤツらが死んだ時に涙は流さなかった。
いや、流れなかった、というのが正しい。
悲しくはなかった。
ただ、自分の弟子が自分の力不足ばかりに死んだことに打ちのめされていた。
涙は流さないと決めている。
────あれはまだ私がマフィアではない頃、
幼い頃から私は両親から"人殺し"を教えられていた。ナイフの持ち方、銃の構え方、人間の急所など。
学校にも通っていなかった。
その代わり最低限の知識、マナー、モラルなどは両親が教えてくれていた。
別に両親がネグレクトだった訳じゃない。
ただベテランマフィアの間に生まれたってだけ。
幼いうちは任務がこなせないからマフィアグループには入らず、"人殺しのいろは"を教わる。
全然苦痛ではなかった。
むしろそれが普通だと思っていたから。
私も両親の期待に応えなきゃって思っていた。
私がこんなにも頑張れたのは最愛の兄のおかげでもある。
私の3つ上の兄だ。
兄は元々身体が弱く、慎重な性格だったので情報収集を主にしていた。
また、観察力に長けていたのでその場の敵の特徴をすぐに捉え体力を使わない戦い方を瞬時に考えていた。
それと逆に私は相手にどんどん攻撃を仕掛けていくタイプだったので、兄との相性は抜群に良かった。
私と兄は最強のコンビとなるだろう、と両親や周りのマフィア達など誰もが思っていた。
両親が忙しい時には兄が様々なことを教えてくれた。
私がここまで成長できたのは兄のおかげである。
兄が居なければ今私は存在していなかったかもしれない。
本当に大好きで、感謝していた。
だが、ある日家族全員惨殺された。
両親は1階で情報処理をしていて、私たちは2階で兄に勉強を教えてもらっていた。
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異常事態に2人は手を止めた。
そう言って兄が私に差し出したのは、兄がとても大事にしている、1番お気に入りの杏のピアスだった。
私は兄に力強く抱きついた。目からこぼれおちそうな涙を兄に見せないように強く強く抱きしめた。
最初は戸惑っていた兄だが、強く抱きしめ返してくれた。
離れたくない…
兄さんは何も答えなかった。
私は顔をあげた。私の目からは大量の涙が零れこちていた。
兄は少し考えていた。
それもそうだ。兄はしっかりしてるとは言えど、まだ13歳。自分が犠牲になるなんてどんなに辛いことか。
私は一生懸命考えた。兄と私が一緒に助かる方法。
でも思いつかなかった。
無能な自分が悔やまれる。
涙は止まらなかったけれど私は笑顔で兄から離れた。そして隠れた。
私は最後まで微笑み続けた。
兄さんの驚いたような表情と笑顔がとても印象的だ。
兄さんの涙…初めて見た。
この家は敵の襲撃に備え様々なからくりがある。
私は今壁の中に隠れている。
小さな隙間から兄の様子を伺うことができる。
?!ドアを開けた音がしなかった。
足音もない……
こいつのことは家族から聞いていたが姿は初めて見た。
すごい殺気…
いつも穏やかな兄。任務の時ですらこんな殺気は感じたことがない。
お互いの殺意が高まる…肺に空気が入ってくる度ずっしりと重たい。気配を消すのを忘れそうなほど。
そう言って鬼姫に攻撃を仕掛ける。
とても早い。これなら…!
ザシュッ
………………え?
兄…さん……?
広がっていく赤黒い液体。
青白くなっていく兄の体。
無惨な兄の姿に声が漏れてしまい、咄嗟に口元を手で押さえつける。
コツン、コツン____________
何かを呟いたアイツと目が合ったような気がした───
そう感じた時にはもうアイツらはいなかった。
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そこからは早かった。
両親が使っていた通信機を操作したら今のボスに出会ったって訳。
8年も匿ってくれて…ほんとに、頭上がんねー……
そして私がのぼせたのは言うまでもない。
☆語彙力欲しい────────────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!