第36話

E p i s o d e . 3 1
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2025/08/16 02:44 更新



酷い頭痛で目が覚めた。

頭痛だけではない。

起き上がると、身体中がズキズキと痛んだ。

シーツに赤い血が染み込み、私の身体にも、そこら中に赤い跡があった。



(なまえ)
あなた
……



隣に、夫はいない。



(なまえ)
あなた
う……



内側を殴られた後のような腹の痛みを抑えて、私はベッドから降りようとした。

しかし、足に力が入らず、そのまま無様に床に身体が落ちる。
 
みっともないな。
 
自分を心の底から笑いたくなった。

痛いし、苦しいし、辛いのに……もう涙は出ない。

きっと昨日の夜で枯れてしまった。

代わりに出たのは、声にすらならない空笑い。
 
喉は機能していない。

ただ静かに、カサカサと空気が出る。



オーター
オーター
起きたか



低い声の夫が入ってきた。

裸の私とは大違いに、綺麗な格好だ。

仕事に行くのだろう。



オーター
オーター
おはよう



金縛りにあったように動けなくなった。

全身が恐怖に支配されて何もできない。
 
殴られる?蹴られる?

それとも……また……

身体は震えるだけで動いてはくれなかった。

神覚者様を相手に動いたところでどうにもならないだろうが。



(なまえ)
あなた
っ……カヒュッ



喉に虫が巣食っているような、そんな痛みと。

そこから出たのは空気だけだった。



オーター
オーター
あなた……あああなた



そんな私の身構えとは裏腹に、まるで昨日とは別人のような夫が、優しい瞳で私を見ていた。

そしてそのまま、ふわりと腕の中に囲われる。



オーター
オーター
すまなかった……
 
(なまえ)
あなた
……え……?
 
オーター
オーター
許してもらおうなどと考えてはいない
オーター
オーター
私はただ君が愛おしくて……ごめん



思えば、夫が怒った理由は頷ける。

私は、嘘をついていたのだから。

嘘の愛を、彼に述べ立てていたのだから。



(なまえ)
あなた
……っごえ、ごめん、なさい……!ごめんなさい……!ごめ、っ
 
オーター
オーター
仲直りしような
 
(なまえ)
あなた
はいっ……



許してくれるのかな。

私を。

優しい人だ。



オーター
オーター
立てるか?
 
(なまえ)
あなた
あ……え、えっと……あと少ししたら



クスッと笑った夫は、私を抱えてお風呂に入れてくれた。

着替え終えて、昨日の夜作っておいた食事に手をつける。
 
喉の痛みで、上手く通らない。



オーター
オーター
あなた?どうした
 
(なまえ)
あなた
あ、ごめんなさい……あの、あまりお腹がすいていなくて……
 
オーター
オーター
……?そうか



いつもよく食べる私に対して不思議に思ったようだ。

しかし、彼は特に何も言わなかった。

食事が終わったあとに、紅茶を淹れてくれた。



(なまえ)
あなた
ありがとうございます
 
オーター
オーター
うん
 
(なまえ)
あなた
……お紅茶がお好きなんですか?
 
オーター
オーター
ああ、昔はコーヒーを好んで飲んでいたが、弟子の影響かな



優しい。

温かい人。

昨日のことは夢だったのだろうか。

いや、私の身体が夢じゃないと言っているが。



オーター
オーター
午前半休をとったんだ
オーター
オーター
これから仕事に行ってくる
 
(なまえ)
あなた
は、はい、行ってらっしゃいませ



気を使わせてしまった……?



(なまえ)
あなた
ごめんなさい私、寝坊してしまって
 
オーター
オーター
君のせいじゃない
オーター
オーター
慣れないことをしたから疲れているだろう、今日はゆっくり休みなさい



私の頬を撫でてキスを落とし、彼は家を出ていった。



(なまえ)
あなた
……お食事くらい作っておかなきゃ
(なまえ)
あなた
お掃除も



冷蔵庫を開けると、昨日でお肉もお魚も使いきってしまっていたことに気がついた。

買いに行こう。

買い物バッグを手に、私もドアノブに手をかけた。



(なまえ)
あなた
……え?



カチャカチャといくら回しても、開かない。

鍵は開いているはずだった。

なぜかドアが開かない。



(なまえ)
あなた
壊れたのかしら……修理してもらわなきゃ



伝言うさぎから、鍵屋さんに電話した。



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