暗い
何も見えない
怖い
暗闇に視界を遮られ、為す術なくあっちこっちと腕を振り回す
こんな事になるなら、こんなバイト引き受けるんじゃなかった
最近懐が寂しいと感じ、どうにも怪しいバイトに手を出してしまったのだ
そのバイト先では珍しい宝石を取り扱っているらしく、今回の宝石取りをする洞窟に、僕はまんまと閉じ込められてしまった
奴らの狙いなど知らん。知ってても知らなくても相応の報いは受けさせる
問題は、この何も見えない暗闇の中でどうやって身動きをとるか、だ
おぼつかない足元、寄りかかれる壁も見当たらず、ひんやりとした洞窟の中で、涙か冷や汗か分からぬひとつぶの水滴が垂れる
この場にただ一人の以上、蹲って助けを待つだけとはいかない
僕は頑張れる。早く帰って伊作に会いたいから
けど、どれだけ強気で立ち向かったとしても
ひとつ、消えないトラウマが更に僕を臆病にする
過去、僕が忍術学園に入学する前の話
僕の故郷は、忍術学園から遥か遠い小さな村だった
はっきりとした記憶は殆どなく
それでもいつまでも消えぬ、いつまでも僕を脅かす記憶。
そんな小さな村にはひとつの仕来りがあった。
それは、村の存続のため村の守り神へ生贄を捧げる事
村長も村人も、あの頃でさえ誰1人そんな狂った儀式を止めようともしなかった。
周囲の戦争に巻き込まれない為に、元気で健康で幸福な赤子を安産できるように。
そして代々生贄として選ばれる子供は、齢十にして、こんな村の存続のため命を捧げるのだそう
生贄を捧げる儀式をの第十三代目の贄として選ばれたのが不幸な子供。
あなたの名字あなた。僕だった
生贄として選ばれたその日から、僕の人生はまるで物のように扱われた
四肢を縄で縛られ、もがくことさえ許されない
口答えをすれば、至る方向から鞭が僕の幼く軟い肌へ打ち付けられる
その時は、まだ生への執着が存在していたらしい。
根っからの頑固者でどれだけ叩き込まれても減らず口で
もう少し時間が経っていれば指の1本は切り落とされていたろう
暗い牢屋の中で、1人寂しく啜り泣く日もあれば、
大勢の客人の見世物にされ、普段よりさらに酷い扱いを受ける日もあった
僕を管理する村人がやってくる時間は、決まって日が沈んだ頃
長い間その牢屋で過ごしていても怖いものは怖い
また縛られて叩かれて、髪を引っ張られたり蹴り転がされるのか……と、
考えるだけで震えと涙が止まらなかった。
そんな過酷な状況を半年耐えた頃。
僕の牢の前でぺちゃぺちゃと駄弁る見張りの会話が、寝そべる僕の耳に入ってきた
話の内容は、まさに忍術学園の話だった。
「 こいつも生まれがよけりゃ立派な忍者に慣れてたかも知れねェのになァ……可哀想な奴よ。」
この言葉は今でも覚えている。
当時も今も腹が立って仕方がない。
お前たちは生まれも身分も関係なく、こんな古びた仕来りに従って子供を犠牲にしてきたんだろう。
当時はそんな苛立ちと共に、生きる希望を見出したのだ
こんな仕来りなんぞに命を費やすくらいなら、
この命を使って、僕にこんな仕打ちを受けさせたこの村を混沌へと落とし込む忍びになって見せようと
所謂、復讐の念に駆られた僕は、それから計画を立てあらゆる情報を盗み聞き
忍術学園へ入学することを目標に生き延びていた
そして計画実行の日。
綿密に練った計画を再度繰り返し頭の中で再現し、
ようやく覚悟が決まったその時。
その日の監視役の一瞬の隙を見逃さず、即座に牢屋から飛び出る
慌てふためく監視役の足の脛にひと蹴り入れれば、その場に転がっていた僕を甚振る用の棒を強く首に打ち付ける
事前に仕入れた情報から、生贄を管理するこの小屋には、村とは別の大量の銭が保管される場所があるそうで、僕はまだ成長しきっていない小さな体を使い、
屋根裏からひっそりと保管庫へと侵入
思っていたより容易く手に入り、そそくさと保管庫を後にする
初めての大規模な反抗に心臓をバクバクと震わせながら腕いっぱいに銭袋を抱え
忍術学園まっしぐらに走り出す
そこから道中の記憶は殆どなく、忍術学園に着く頃には足の感覚はなくて、どれだけの時間、何日、何ヶ月走り続けたか分からない
その先で覚えているのは、クタクタで傷だらけ泥だらけの僕に手を差し伸べてくれたのは
事務員の小松田さんでもなく、学園長でもなく
同じように泥だらけで、小さな手を差し伸べる
善法寺伊作だった。
一目惚れと言うやつではないが、僕の消えない深い傷を、徐々にでも癒そうとしてくれたのは、確かに伊作だった。
思い出したら会いたくなってしまった。
早くここから抜け出したい。抜け出せるものなら
産まれたての子鹿のように震える足で、ちょびちょびと辺りをうろつきまわる
ぶんぶんと腕を振り回していたその時。
とんっ
確かに手がなにかに当たった
それは人肌のような体温をしていて、いや、確かに人だ
弱々しく相手の服を握り、僕の前だか横だかに居るその人物に問い掛けていると
ようやく求めていた返答が洞窟内に響く
伊作の声を遥かに上回る大声が、2人の耳を痛めるように響き渡る
安心するために伊作を一目見ようと、瞑っていた目を頑張ってこじ開ける
その一言で納得してしまうこの状況が何より恐ろしい
常日頃伊作とは2人きりになりたいと願っているものの、
今回ばかりは訳が違う
あまりにくだらない理由で笑われないかな…いや、こんな笑えない状況で笑顔になってくれるなら本望か……
と、諦めこれまでの経緯を洗いざらい話す
はっきりとは見えないが、きっと優しく微笑みかけてくれているのだろう
やっぱり優しい人。
伊作が僕を助ける義理なんてないのに、
僕を甘やかしちゃう人なんだ……。
そこが好きだ
あなたは暗い所苦手だったね。と、横から声がすると同時に
右手にじんわりと人肌を感じる
安心と緊張が同時に押し寄せて、閉じ込められた当初とはまた違う冷や汗が垂れる
今更ながら僕は何を言ってるんだ
同情されて手を握っただけで何を舞い上がっている?
触れなくとも顔が茹でられるように赤く熱くなっていくのを感じる
そんな優しい声色で、甘く囁かないでくれ………
僕は苦手を克服なんてしようとしてない。
ただ伊作と一緒にいたいだけで…不純な理由なのに
どこまでも僕が惨めに見えてしまう
無意識のうちにぎゅっと暖かい右手を強く握ってしまう
ああぁもう!僕の阿呆野郎!
あ〜〜……こんな幸せな時間が続いて欲しい気持ちと一緒に、
早く終わって欲しい気持ちがせめぎ合っている
そうして、ひとり心の中で騒ぐあなたと、訳も分からず悶えるあなたを心配そうに見つめる伊作。
そして後にあまりに帰るのが遅くなり、心配になった仙蔵と留三郎が汗だくになって2人を探し回っていた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。