第5話

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2025/06/03 15:00 更新




どういうわけか僕は今、五年ろ組の竹谷八左ヱ門と一緒に町に出ている




八左ヱ門は飼育している子たちの餌の買い出しだと言っていたけれど



僕が覚えている限り、確か餌の補充は二日前に大量に仕入れしたはず…



そんなことを、八左ヱ門が忘れるなんて考えられない。




ならどうして噓をついてまで僕を連れ出したんだ……?




疑問の種は尽きないまま、八左ヱ門の様子を伺いながら八左ヱ門の後ろについて歩く




わかりやすく気まずそうに顔をしかめる八左ヱ門が、何かを思い出したように僕の顔を見て口を開く



竹谷 八左ヱ門
この間、しんべヱからうどん屋教えてもらったんですよ!
先輩、おなかすいてますか!?
あなた
えっ?
うん、まあ空いてるかな




よかった!じゃあ行きましょ!と、眩い笑顔で僕の手を引く……と、




ハッと何かに気づいた様子で僕の手を放す



竹谷 八左ヱ門
すっすみません!
い、いきましょう!!




そう言い前を向きうどん屋さん目掛け大股で歩き出す八左ヱ門。



ごつごつとした優しい手だった。僕の手を取る感触に一切の下心がなくて




まるで小動物を愛でるような……




ん?もしかして僕、後輩に小動物扱いされてるのか




もやもやと連れられるがまま八左ヱ門を追いかけると、遠目で見覚えのある影がふたつ…





あなた
っ!ぁ、わ…



立花仙蔵と、その隣に僕の愛おしい人。善法寺伊作が向かいから歩いてくるではないか



な、なんでここに…?いや、伊作も町に出ることあるよね。




焦りに焦る僕を、足を止め僕の様子を不思議に思った八左ヱ門がこちらへ寄ってくる



竹谷 八左ヱ門
あなたの名字先輩…?
どうかしました?
あなた
いやっ、なんでもないよ…
いこう



下手なりに笑顔を作って見せると、正面から迫る二人から少しずれた位置に目線をそらし、道なりを進む




が、そんな演技も普段から共に過ごす者には筒抜けで。



立花 仙蔵
お前、あなたではないか?
あなた
げっ……
仙蔵、奇遇、だね……
立花 仙蔵
なんだその顔は
わたしに鉢合わせてまずい事でもあるのか?



そう堅くなるな。言ってみろ と身を寄せてはがっしりと肩を組まれる




優美な顔立ちをしているが確かに鍛錬を積んできた身体に、しっかりと筋肉のついている腕に捕まってしまい、




好いている人の前で手荒な真似はしたくない為、逃れることができない。




この男、そのことを理解していながら絡んできたな…。自室に戻ったらたんと嫌味を言ってやろう




周りに悟られないように、心の目でにっこりと楽しそうな仙蔵を睨みつけていると


善法寺 伊作
あなたに八左ヱ門。
委員会以外で二人が一緒なんて珍しいね?




仙蔵に捕まる僕を横目に八左ヱ門と会話を広げる愛しい人。




伊作!僕に話しかけてよ!!伊作と話したいよぼくは!と、心の中で必死に訴えてみる




竹谷 八左ヱ門
ぁ~、そ、そうですね!
これから一緒にうどん屋さんに行こうと思ってて…




そ、そうだ!先輩方も一緒に行きませんか!?





何を言い出すかと思えば…………






僕の後輩はなんて健気で気遣いのできる子なんだ!!!


立花 仙蔵
良いのか?
元はお前たちで行く予定だったのだろう
善法寺 伊作
あぁ!僕たちのことは気にしないで!
二人で楽しんできてくれ!








だよね、伊作ならそう言うと思ってたよ。




目に見えて落ち込んでいた僕を見た八左ヱ門がちょいちょいと仙蔵に手招きすると




二人で何やらひそひそと話しているようだ



















竹谷 八左ヱ門
あなたの名字先輩の元気がなくて、
同輩で同室のお二人に元気づけてほしくて…!!
立花 仙蔵
ほう、なるほどな。




八左ヱ門がてんぱる事情を理解すると、なるほどな…と顎に手を添えている仙蔵。




僕はというと、八左ヱ門と仙蔵が話し込んでいた為余り者の僕と伊作で何か話題を広げようと必死なのだ。



いくら頭を回転させても口から発せられる言葉は。あ、う…えっと。。。と、小さく呟くことしかできない





そしてやっと話題を見つけ、はなしかけるぞ!と意気込んだその時には




八左ヱ門と仙蔵がこちらを向いては
立花 仙蔵
伊作。この二人、私達と同じうどん屋に行くらしい。
せっかくだ。みんなで食べようじゃないか




なっ と、僕にウィンクを飛ばす仙蔵。飛び散る星と一緒に、貸し一つだ なんて幻聴も聞こえてきた気がする


善法寺 伊作
そうなの?
それなら一緒に頂こうかな!
善法寺 伊作
あなたもよかったかな?
あなた
えっ!?
あなた
う、うん!もちろん!




驚いた。まさか声をかけられると思わなんだ…。




すこしオーバーに驚いてしまった。






伊作はふふっと愛らしく微笑むと、僕らを率いてうどん屋さんへ向かう。




そんなに楽しみなのか…やけに軽い足取りでだんだんと僕らとの距離が広まってゆく。




八左ヱ門はそんな伊作の後を追いかけていくと、歩幅を合わせてくれた仙蔵が話しかけてきた。



立花 仙蔵
良かったな?
あなた
……。
ありがと…。
立花 仙蔵



背を押すように僕の背を優しく叩くと、滑らかな髪をなびかせ前を歩く二人を追いかける仙蔵。




呼吸を整え、勇気を振り絞り伊作の隣目掛け駆けだす僕。




今日くらい、隣にいたいのだ。




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