花に例えるなら彼はアネモネのような人だった。
儚く、でもそれ以上に美しく優雅に風に揺れている。
俺はそんな彼が大好きだった。
勿論恋愛対象として。
でももう君の視線の先には違う人がいて。
俺の気持ちに関係なく仕事は降り注いでくるから、
この気持ちにはうまく蓋をした。
つもりだった。
ある日彼と二人の仕事があった。
俺は前の仕事がまきで終わったから、早めに楽屋に着いていた。
しばらく本を読んでいると乱暴に扉が開いた。
そこには花束を持った、彼がたっていた。
泣き腫らしたような目をして。
『どうしたの…そんな、目・・・大丈夫?』
「ほッ、北斗ッ…グスッ気にしないでッ…」
『え、あ、いや、気にしないのは無理だけど…どうしたのか聞いてもいい?』
「グスッ、北斗ぉ…ポロポロ」
京本はそう言うと崩れ落ちるように座り、泣き出した。
彼の手からは花束が落ちて、花びらが何枚か散った。
そして彼はようやく話し始めた。
「北斗だから言うけどッ、俺と樹、付き合ってたの…でもさっき別れたの。振られたのッ‼︎なんでッ⁉︎俺はッ、俺はいつも樹のことだけ考えてッ、樹に尽くしてきたのにぃッ…ねぇなんでッ、なんでぇぇ…‼︎‼︎」
ああ。
やっぱり彼の中には樹しかいないんだ。
俺にとっては好都合だったから彼を抱きしめる。
彼にとって都合のいい男でいいからさ、嘘でもいいからさ、
俺のこと好きになってよ。
なんて言えない。
『でもね、京本。一ついいこと教えてあげる。』
そう言って俺は彼が落とした花束を、アネモネの花束を拾い上げた。
『アネモネの花言葉ってね、"君を愛す"っていうんだよ。だから大丈夫。樹も京本のこと、愛してたと思うよ。』
でもね京本、アネモネの花言葉はもう一つあるんだよ。
「捨てられた悲しみ」っていう花言葉がね。
俺は意地悪だから教えてあげないけど。
君にはアネモネが似合っているよ。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。