音は兄貴がボールを操る姿に憧れて小学4年生の時初めてバレーボールに触れた。楽しい。ただそれだけを感じそれから毎日兄貴がバレークラブで習ってきたことを教えてもらった。
兄貴が中学生になってからは一も音の家に来るようになって兄貴、音、一の3人でバレーボールをするようになった。
周りの女の子より背が高く、運動神経が抜群ということもあり、あっという間に2人より上手くなった。
中学校でも1年生ながらにレギュラーになった2人に褒められるのはとてもいい気分で嬉しかった。それに音も2人と同じようにバレーボールが出来ていると思うだけで興奮した。
ずっとこんな毎日が続くと思っていた。あの日までは…
あの日もいつものようにバレーボールをしようと思い兄貴と玄関を出ようとした。が、音を呼び止める声が家の中から聞こえた。
あの日はいつも仕事でいないお母さんが休みで家にいたんだ。音に対して異常なほどに過保護なお母さんは音が外に出ることを許さなかった。
それから音はこっぴどく叱られ【女の子らしく】という古い考え方を叩き込まれた。
「男といると女の子らしくできないわ」
とか言って、兄貴とバレーをすることは愚か会うことすらも許されなかった。
お母さんは19才で兄貴を産んでそれと同時にお父さんに捨てられたらしい。「まさか子供が出来るなんて」って。だからこの家で男は兄貴一人。そんな兄貴は肉体的にはなにもないものの虐待同然のものを受けていた。そんな生活はお母さんが事故死した日まで続いた。音が小学5年生のときの秋から中学1年生の夏までの約3年間。
私は幸せな人生を諦めた。
音はお母さんの過保護な生活で余計に【女の子らしく】というのがわからなくなった。そして私はあることに気付かされた。
葬式の日。音と兄貴は大忙しで会うことが何故かなかった。葬式が終わったあと音はお母さんが死んだことより兄貴との再会に涙を流した。それを見た兄貴は戸惑ったようで
悲しい顔でそういう兄貴はどうやら私が泣いているのは、お母さんが死んだからだと勘違いしたようで申し訳無さそうにしていた。
音達はこうして感動の再会を果たした。が、音にはまだ言わなくてはならないことがある。お母さんのおかげで気付けたこと。
その後音と兄貴は久しぶりに顔を合わせてご飯を食べた。作る時間がなくスーパーの惣菜だったけどいつもの食事より100倍美味しく感じた。
数日後
音は久しぶりに一に会った。というより会いに行った。久しぶりに会った一は大きくなっていた。
言ったらどうなるんだろうか。嫌われちゃうのかな。また会えなくなるのかな。そう思うだけで怖くなる。
震えていることに気付いた兄貴が手を抑えて安心させてくれる。
怖い怖いけど、大丈夫。大丈夫2人ならきっと。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。