ホイッスルが鳴る。
次のメニューは、実戦形式に近いラリー練習。
ただし、セッターがコート不在の場合を
想定した練習である。
コートに入るメンバーが呼ばれる。
その中に、自分の名前があった。
軽く息を吐いて、ポジションにつく。
ネットの向こう側。
視界の端に、小川が入る。
一瞬だけ視線を向けるが、やっぱり合わない。
最初の一本。
サーブが入る。
ラリーが始まる。
レシーブが上がり、トスが上がり、スパイク。
そして、ブロック。繋ぎ。
流れは悪くない。
むしろ、いい。
_______、ただ一つを除いて。
自分の前に、ボールが来ない。
完全に、ルートから外されている。
二本目。
三本目。
同じ。
どれだけいい位置に入っても、
どれだけ打てる準備をしても、
ボールは、別の場所へ運ばれる。
チームメイトの声が飛ぶ。
ポイントが決まる。
空気はいい。
____、自分以外は。
思わず、苦笑が漏れそうになる。
でも、納得でもあった。
中途半端に扱われるより、よっぽど分かりやすい。
四本目。
今度は、自分でレシーブに入る。
低く、鋭く繋ぐ。
完璧に近い軌道。
誰が見ても、使いやすいボール。
その先にいるのは、小川。
一瞬、そんな考えがよぎる。
次の瞬間。
小川が動く。
一歩、踏み込む。
体勢を作る。
そして。
ボールは、サイドへ大きく振られる。
別の選手へ、迷いなく繋がれる。
一切の躊躇もなく。
流石に、少しだけ驚く。
今のは、どう考えても。
考えるまでもない。
選ばなかったんだ。
意図的に。
明確に。
俺を。
誰かが軽く声をかけてくる。
何に対してのドンマイなのかは、分からない。
たぶん、分かってない。
分かる必要もない。
構え直す。
次が来る。
まだ終わってない。
ラリーは続く。
五本目。
六本目。
何度も同じことが繰り返される。
ボールは繋がる。
攻撃は決まる。
チームとしては、問題ない。
ただ。
俺だけが、そこにいない。
ふと、周りの視線を感じる。
気づいている人間は、気づいている。
でも、誰も何も言わない。
言えない。
その沈黙が、余計に際立たせる。
この状況を。
ここまで来ると、逆に感心する。
感情で動いてるのに、
プレーの精度は一切落ちていない。
むしろ、いつも以上に正確だ。
だからこそ、余計に伝わる。
これはミスじゃない。
偶然じゃない。
意思がある、と。
ホイッスルが鳴る。
ローテーションが回り、ポジションが変わる。
それでも、結果は同じだった。
どこにいても。
どれだけ動いても。
繋がらない。
選ばれない。
関係が、存在しないみたいに。
思わず、小さく笑う。
流石に、ここまで来ると笑える。
中途半端に期待する必要がない。
最初から、ゼロでいい。
いや、マイナスか。
その方が、やりやすい。
次のラリーが始まる。
サーブが飛び、レシーブが上がる。
また、繋がる。
やっぱり、来ない。
でも、
踏み込む。
準備する。
打てる形を作る。
来なくても、関係ない。
それでもやる。
何度でも。
その姿を、視界の端で捉える。
ほんの一瞬だけ。
小川の動きが、わずかに止まった。
迷いではない。
確認するみたいな、一瞬。
すぐに元に戻る。
また、別の場所へ繋がれる。
変わらない選択。
変わらない距離。
それでも、
確かに、こっちを見た。
一瞬だけ。
それだけで、十分だった。
ホイッスルが鳴る。
練習終了。
コートの空気が緩む。
誰もが軽く息を吐く中で。
俺は、一人だけ立ったまま。
ネットの向こうを見る。
小川は、もうこっちを見ていない。
何もなかったみたいな顔で、
次の行動に移っている。
心の中で、静かに呟く。
選ばれないなら、選ばせるしかない。
無視するなら、無視できなくすればいい。
やることは、シンプルだ。
もう一度、ボールを触る。
感触を確かめる。
まだ、終わってない。
むしろ、ここからだ。
さて、あなたは小川さんにかなりフル無視されてますね、…。
なんでなんでしょうか()
新作2つ出しました!!
大宅選手メイン、市川選手メインの小説です!
よければ!












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。