一度は布団でしばらく待っていたが・・・ボクは、再び目を開ける。
はっきり言うと・・・・・・寝かけていた、だが。
そう ─── 決戦の時が、今だ。
ボクは、音を立てずに起き上がり・・・ 。
足の裏の肉球の角度に気をつけながら、隣の方へ忍び足。
掛け布団が上下している_ _ _のベッドに手を付いて、時計を取り・・・、
時計の針をきっかり30分・・・遅らせる。
いつも、
アイツは決まった時間に起きる。
明日、集合時間丁度を示す時計を見て時間に焦り、
また隣に寝ていないボクをみて、
あぁやってしまった置いていかれたんだと焦り、
慌てて下に降りるはずだ。
─── そしてボクは
リビングで、スープを飲みながら、
かっこよく新聞でも広げてこういうわけ。
「おやおや、お寝坊かい?」・・・・・・ってねッ!!!
これは、完璧な、計画だ。
次の日。
ボクは確信する。
自分のほうがお隣のヤツより早く起きているぞ、と。
部屋は静寂といっていい。
隣のベッドは膨らんでいる。
カーテンをこっそり動かして開けるとまだ暗い。
・・・・・・よし!よし!!よっし!!
い。いや、油断するなボク。
こういうときに床に落ちてるものを踏んで足を滑らせ、
大きな音を立てるなど・・・あってはならない事態だ。
シュッタと、床に伏せて四つ足で移動する。
薄く扉を開けて・・・、どき、どき、どき・・・。
右よーし、左よぉーし。
そして、リビングへと・・・・・・。
腕に何か突っ張るような感触がした。
えっ ── 釣り糸??
しゅるり、と張力を失って、釣り糸が抜ける。
視線を辿ると、紐は天井へとつながっており、
さらに突き当りの鉄製の掃除用バケツに。
それはふらりと傾いた、
あッ、やばい。
大きな音を立てて、それは落下した。
─── ボクの、頭に。
うーん。コレが才能ってやつ、かなあ。
上手く行かないなあ。
今日は、また別の子が木の枝を持って先導する。
くるりくるりと振り回して、向かった先は ─── 巨大水上アスレチックだった。
わあと驚く。
遊具の至る所にはそれぞれ違うアスレチックが盛り込まれており・・・
隙間の空いたトランポリンわたり、ジグザグの平均台に、スラックライン。
すごい、すごい!!
森のアスレチックと違って、下が水で満たされているから、
小さな子がうっかり落ちても怪我する心配はなさそうだった。
── 気温も水温も温かい。
チャプ、と付けていた手を引っ込めた。
それぞれスイムウェアに着替えて、挑戦。
・・・ ・・・さっそくぷにぷにの橋で、
一人目の子が足を滑らせて水に落ちてしまった。
あなたは勝負はせず、
ボクたちより小さい子たちの面倒をみることにしたようだ。
・・・ちょっとつまんないけど、
こっちが見てなくてもいいなら、
それはそれでラクかな、と思い直した。
_ _ _も同じ考えなのか、ニヤリとこちらに笑いかけた。
朝の恨みもこめて、
合図すら待たずスタートダッシュを決める。
ぷにぷにの床は水に濡れて滑りやすい、
着地の位置に気をつける。
最終的には
ボクのほうが先に
第1ゾーンゴールに到達した。
ぃよっし!!
最初に水に落ちた・・・この場所を「選んだ」子が、
ボチャンと水の中に落ちて、水柱が立った。
なんか、意外だ。
別にアスレチックは得意とかじゃないのに
ここ選んだんだなんて、変わってるよね。
その子が別の子に手を貸されて、滑り台へと復帰。
なんとも覚束ない足取りだが、確実に前へ前へと進んでいった。
あなたのなんというか・・・適当さ?
オトナのくせにあんまりオトナっぽくない気がする。
ヘンな波風立たせたくないから、黙っておくけど。
まあいいや。
じゃあ、今度こそ3人でだね!
みんなより大きいあなたは、
リーチの差を活かして難しい場所も難なく飛べそうな気がする。
これは、手強い相手だ。
確実コースだ!
ていうか、近道コースは1個目から「挑戦者を絶対に落としてやる!」っていう装置としか思えない。
2本のレールの上に対して太い丸太が一本だけ橋みたいにに架けられており、その丸太に抱きついたまま回転しながら対岸へ渡るみたい。いやいやあんなの、怖すぎ。
その先のアスレは、自動回転する無数のやわらかそうなポールを避けつつ、高さの違う4つの足場を渡ってゆくという鬼畜コース。あなたはそれを“フィッシュボーン”と名称を言ってたけど、どの辺がフィッシュでどの辺がボーンなのかもボクにはよく分からなかった。
───あっちの近道もとい、ネタコースはさておき、こちらの「確実コース」も難易度は上がっている。
気をつけないと落ちてしまいそうだ。
高いところに到達して、
他の子たちの様子が良く見える。
名実ともに・・・ボクが、一番だ。
気分がいい。さいこー。
朝の一件には心底腹が立ったけど、
もうそれすら忘れた。
この先は、高い場所からのターザンロープで滑ったあと、いくつかのバランスストーンの上を歩き、最後に大きなザイルクライミングのところを進んだらクリアのようだ。
さてさて、あなたたちは・・・どの辺かな?
振り返ったら二人は、居なかった。
先に行ったボクに追いつくには、
後から確実コースを進むだけでは
勝てないとみたのか、
危険な近道コースを選択していた。
ていうか_ _ _は丸太の存在を完全無視し、
レールの上から移動し(そんなのアリ??)ており、
先に到達したあなたは_ _ _に、腕を広げていた。
え・・・ちょっと、それは卑怯じゃない?
ボクは慌てて、ターザンロープを掴んで下へと降りる。
もう、変わる景色を楽しむ余裕はない。
ちょうどボクがターザンロープ着地地点についた頃には、
とうっ!とジャンプして、_ _ _はあなたにキャッチされていた。
更に、二人は目を見合わせて頷きあう。
・・・ええ、うそッ!!
まさか、ホントに!?!?
更に、
あなたはゆらゆらと抱えたソイツを揺らして・・・
_ _ _を、向こう岸へ放り投げた。
ぽにょんと、向こう岸の上で跳ねて・・・。
やがて、止まって・・・立ち上がった。
つまり、
超高難易度アスレの後半をスキップして、
_ _ _が先にゴールに到達した、ということ。
ボクは、あまりにもカオスの連続に、
受け入れられることができずついに膝をついた。
なんだそれ、なんだそれ・・・。
ボクの目線の先には
ゴール到達済みの_ _ _が笑ってる。
た、確かにアイツには負けたけど・・・、
あなたに負けるのだけは、
絶対にッ!!イヤだッ!!
大丈夫だアズリエル。あなたには勝てる。
さっきのようなショートカットはもう使えない。
ここにあなたを投げられるヤツは居ないから。
つまり、あの謎回転する超高難易度アスレを一人で地道にクリアするしかない。
一方のこっちには何もリスクもない。
落ち着け、落ち着け・・・。
ボクはぴょんとバランスストーンを
5つ連続で飛び越える。
おちついて、おちついて・・・。
一気に詰められたことで、
ボクの精神的余裕が一気に削られたからだろう。
さっきまでだったら
なんてことのないロープですら、
足をかける仕草を誤った。
つるり、と手が空を切った。
背中に冷たい水が当たった。
深く、深く・・・
それに逆らわず、潜っていく。
水の中は思ったよりも静かだった。
そこそこ大きな音を立てて
どぷんと落ちたはずなのに、
音はすぐに遠ざかって、
耳の奥で低く響く水温だけが残る。
泡が、上へ上へと逃げていく。
視界が歪んで、輪郭が曖昧になる。
───別に、競争じゃないし。
水だから危なくないし。
そもそもボクはモンスターだから、
魔法を使えばこんなもの、即座にクリアできてた。
ニンゲンたちの・・・レベルに合わせて、
力を抑えていただけだし。
・・・だから、ボクは負けてない。
身体が沈むのをやめて、わずかにふわりと浮く。
重さも、悔しさも、水に溶けてしまえばいいのに。
でも、実際はそんなことなくて・・・。
浮き上がる身体に抵抗するように、
ボクは手を掻いて水中に留まる。
悔しくて、なさけなくて、
──ボクは水上に顔を出すことはできなかった。
ぽこり、と口から泡がこぼれる。
・・・ぽこり、ぽこり。
もうあなたはゴールしちゃったかな?
・・・そりゃ、するか。
ボクなら、先に行く。
突然、
2本の泡柱が目の前に現れた。
やがて泡柱は崩れ…、
その影は再構成した。
輪郭は水のゆらめきでボヤけているのに、
なぜかその正体はすぐにわかった。
_ _ _とあなただ。
遅れて、胸がどくんとなる。
勝っていたはずの二人。
上にいたはずの二人。
なのに、
影が近づく。
伸びてくる手。
───どうして。
どうして、落ちてきたんだ。
せっかく勝ってたのに。
ボクは一人でに自滅して、チャンスなのに。
問いかける暇もなく、
それぞれから差し出される両手が、ボクの指先に触れた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
水ごしでもわかる温度、
指が絡む前の、ためらいのない接触。
・・・それだけで、胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。
手がしっかりと掴まれる。
逃げない力、引き上げる力。
あぁ、
上から下へ、
天上の世界から、下界の方へ。
天使みたいだ、なんて
二人には全く相応しくない言葉が浮かんで、
ボクは、自分で自分に呆れそうになった。
でも、光の中で笑っている二人は、
どうしようもなく綺麗だった。
水の中なのに、
息が苦しいはずなのに、
なぜか、それを忘れてしまったみたい。
水面が近づいて、
光はもっと眩しくなって、
この手を、離すのが勿体無い。
ただそれだけが、はっきりと残った。
──正直、帰り道に何を話したのか、
水に落ち続けてた子が本当にゴールできたのかも、あんまり覚えてない。
ボクは、家に帰ってからも
・・・その日はずっと、ぼうっとしていたからだ。
・・・あいつが風邪をひいた。
そんなに身体が頑強なわけでもないのに、
昨日張り切りすぎたからだと思う。
とはいえ、心配は心配なので、
今日はみーんなお出かけはナシ。
ボクは_ _ _の看病に専念することにした。
部屋の窓を開けて、カンキをする。
ニンゲンはこうやって
ときどき新しい風に入れ替えをしないと、
調子を崩すんでしょ?
あなたが、手助けとして居ることにはいるが、
正直に言うと全く戦力にならない。
仕方なくボクがアイツ用の飲み水、冷やしたタオル、甘くて食べやすそうな食べ物を用意したりと奮闘した。あなたは甲斐甲斐しく動くボクをみて「ほーう」と感心したような声を上げた。
いい機会だ、上がどっちか、わからせてやらなきゃ。
そもそも今の状況、ボクが兄説以外あり得なくない?
お互いに自分が上だという証拠を提示し、同じだけの反証が返ってくる。
あなたは、しばらくは眺めていたが、
_ _ _がヒートアップの末に、咳の発作が出て強制終了を言い渡した。
でもなんかその「言い方」に、
言いようのない“オトナ”、
そして勝手な敗北感を覚え、
ボクも_ _ _も同時に閉口した。
───空間を、自然と静寂が支配した。
ボクが次の話題に逡巡していたら、
いつのまにか_ _ _が寝息を立てていた。
熱で赤くなった頬、少し乱れた呼吸。
さっきまでうるさくて強情だったのに、変な感じだ。
再び静かになり、
あなたが本をめくる音だけが
この場における唯一の音源となった。
開いた窓から、冷たい風が差した。
腕をさする。
あなたに背中から膝掛けごと抱きしめられた。
なんか、前にもあっけど、今回は「違う」ような気がした。
密着するボクたち。
咄嗟に出そうだった言葉を、どうにか飲み込んだ。
「(ねえ、なんか── へん、じゃないかな??)」
拒みたい衝動が、ある。
やわく生ぬるい接触が、ボクの平穏を乱す。
何かそぐわない行動をしたら「どうかしたの?」って言われてしまう。
不審に思われて、「これ」が壊れてしまう。
だからボクは───変わるわけには、いかない。
それなのに、鼓動だけが、うるさい。
優しい、空間。
ボクは、まだ・・・この場所を。
ありがたいことに、_ _ _のテンションがハイになりすぎている様子も、その子たちは受け入れてくれた。
・・・・・・今日は、公園で「ヒーローごっこ」の日。
滑り台の上で一人の子が、
おもちゃのゴムでっぽうをくるりと回して、ポーズを決めた。
しかもそれだけにとどまらず、結構遠くにある空き缶を見事ゴム弾で撃ち抜いた。
カラーンと空き缶が転がった。
すごい!!
最初は正直子供っぽいからイヤだなと思ったけど、
いざやってみると各々が思う「かっこいいヒーロー像」が違って見えて、非常に興味深い。
あなたは・・・。
明らかに特定の誰かのモノマネしていた。
そいつが「推し」なんだね・・・?
楽しそうでなによりだけど、自分が混ざるのはいいかなあ。
・・・ていうか、やっぱりボクの方が兄なんじゃない??
別に喧嘩したいわけじゃないから言わないけどさ。
ふう、とため息をつく。
また挑みに行く_ _ _を見て、
ほんの少し羨ましいなと思わなくもないけどね。
・・・と思ったら、_ _ _があなたの腕を掴んで戻ってきた。
子供たちがボクらを笑いながら囲む。
色とりどりのヒーローたちが小さな公園に集った──。
いつの間にかボクもその中の一つとなって、
ボクも「いちばんのヒーロー」に、なった。
夕焼け小焼け。
今日もまた、おしまい。
でも・・・なんとなく「みんな」に言いたくなった。
おもちゃの剣や、おもちゃの鉄砲、
みなそれぞれ「当然」とばかりにボクに返事をしてくれた。





























編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。