手鏡を開いて、身なりを整える。
もう何度確認したかも分からないくらい。
だって今日は俺が移動を受けて初めての出勤だから。
しかし、いくら時間をかけて整えたところで、時間は刻一刻と過ぎていく。
遅刻だけはなんでも避けないといけない。
やっと自分の部署の扉の前に立つ。
体感的に重く感じるドアを人思いに引く。
一瞬だけこちらに視線が集まった気がしたが気の所為ということにした。
「あ、俺…!」
「おぉ〜もう来たんだ新人くん。」
多分偉い人なのだろう、少しふくよかな男性が話し始める。
「あ、はい。」
「ん〜じゃあ紹介と、これからについての話するからみんなちょっと集まってくれる?」
作業や雑談をやめて、俺の方に人が集まってくる。
「あ、えっと…今日付で2課から移動になりました、有坂夏向です。」
「皆さんどうぞよろしくお願いします…!」
「そういうことで、今日から有坂くんがみんなの仲間になるからよろしくね。」
歓迎の拍手の音が聞こえてきてやっとまともに息が吸えた気がした。
「ん〜バディは…。」
周囲を見渡した後、1人の男性の名前が呼ばれた。
「久雅くん、お願いね。」
久雅と呼ばれたその男はまさか自分が呼ばれると思っていなかったようで、少し驚いた顔を見せる。
しかしすぐ人好きする笑顔を作りこちらへ歩み寄って来た。
「私は久雅裕一です。よろしくお願いしますね、有坂さん。」
筋肉はあるものの、細身で長身な体を持つ彼は不器用に自分の手を差し出す。
どうやら、握手を求められているようだった。
「あ、はい!よろしくお願いします…!!」
すかさず手を取り握手を交わす。
大きくて骨ばった手が、こちらの手を痛めないように、優しく、しかし強く握ってくる。
「うん。よろしく」
何処かで既視感を感じた気がしたが思い違いだろうか。
「あ〜じゃあこれからの説明も始めるね。」
「今日からここ、1課に新しい班が出来ることになった。」
突然の発表にみんなは耳を傾けて聞いていた。
「”怪異殺人事件班”だ。」
聞き慣れない言葉に頭に疑問符を浮かべるものが多かった。
「初めてこの言葉を聞くものも多いかもしれないが、概要は名前通り。」
どうやら怪異と呼ばれる所謂、妖怪や都市伝説みたいなものが引き起こした殺人事件を解決する班、ということらしい。
そんな事件聞いたこともないし、そもそも怪異なんて存在するのか、と疑心の念を複数が抱いた時だった。
「みんな信じてないって顔してるけど、今有名な”あの事件”がそうなんじゃないかって話があるんだよね。」
”あの事件”と聞いて一同がすぐに思い付く事件といえば、大掛かりな割に短時間かつ凶器も見当たっていないあの無差別殺人事件のことだろう。
「ん〜そう、皆が今思ってるその事件のことだよ。」
「で、その班の所要人物として…」
思わず固唾を飲む。
そんな得体の知れない班に入ることになるのかもしれないのだから、当然のことなのかもしれない。
「「久雅くんと有坂くんに任せようと思う。」」
あーぁ、予感が当たっちゃったよ……。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。