俺の家系は代々有名な魔術師で、その血を引く父と魔女の谷出身の母との間に俺が生まれた
長男ということもあって親戚や町の人達は俺の誕生をとても喜ばしく思ったらしい
しかし中には、魔女の母を嫌う者も何人かいて生まれてくる子はきっと恐ろしい力を持っているのではないかと酷く怯えていた
なぜなら、基本魔術師と魔女族の結婚は許されていないから
それでも両親が愛の約束を果たせたのは母が父に異常なほど依存していたからだそうで
俺は正直、母の考えが全く理解できなかった
そもそも母が住んでいた魔女の谷と父が住んでいるミューンではあまりにも環境が違いすぎるし
町の人達も正体不明の魔女に嫌悪感を抱いている
最悪の場合、母が殺されてしまっても仕方がない状況だったのだ
そんな身の危険をも感じず、父に全てを捧げた母が俺は大嫌いだった
そこまでして一人の人間を愛したいと思える母が大嫌いだった
でも…今になってようやく、母の気持ちが理解できる
一緒にいたら嫌味を言われてしまうかもしれない
自分の名誉に傷が付いてしまうかもしれない
それでも俺は…ずっと一緒にいたい
そう思える人物に俺は出会ってしまったんだ
タッタッタッタッタッタッ…
ガチャッ
もるでおの家は町のはずれにある小さくて古い家だった
中は狭く、至る所に壊されたような跡やラクガキが書かれている
その部屋の奥に、女性が一人布団に包まっていた
その女性は酷く痩せ細っていて顔色もあまり良くない…
何度も咳き込んでは、小さなその手で口元を抑えた
ニカッと笑うもるでおの表情はとても輝いていて、美しいその瞳は希望という名の光で満ち溢れていた
あの日がくるまでは…
ダッダッダッダッダッダッ!
あれから数週間たったある日、もるでおから突然電話がかかってきた
どうやらお母さんの病態が急変し、流石のもるでおでも手に負えない状況になっているらしい
俺はすぐに家を飛び出してもるでおの家へと向かった
ダッダッダッダッダッダ!
ガチャッ!
ベッドに横たわっているもるでおのお母さんの目は、まだ微かに開いていた
状態を見る限り、彼女を救うことは出来ないと判断した俺はもるでおの手をぎゅっと握りしめた
すると突然、彼女の唇が少し動き始めた
そう言ってお母さんは棚の最奥にあった分厚い本を取り出した
その言葉を最後に、彼女は息を引き取った
ザッザッザッザッザッザッ…
ザッザッザッザッザッザッ…
そのままもるでおは丘の上に建っている大きな教会の中へと入っていった
息を切らしながら俺もその後を追う
聖書台の前に立ったもるでおは十字架を逆さにすると呪文のようなものを唱えながら分厚い本を開いた
その瞬間、黒い煙がもるでおを包み込んだ
そしてみるみる体の中へと吸い込まれていく
あまりの光景に俺は息を呑んだ
立ち上がったその姿や表情はいつもの優しいもるでおではなかった
鋭い目つきと凛とした美しい横顔から凄まじい殺気を感じ途端に恐怖を覚える
俺は声を震わせながら彼に話しかけた
するともるでおはゆっくりと俺に歩み寄り手を伸ばしてきた
ニコッ
身の危険をも感じず、父に全てを捧げた母が俺は大嫌いだった
そこまでして一人の人間を愛したいと思える母が大嫌いだった
でも俺はあの時、母と同じことをした
俺には彼を一人にすることなんて出来ない
だから俺は彼に全てを捧げる
どんな時でも必ず傍にいる
例えそれが、彼の最期だとしても…
遠くまで広がる空は真っ青で肌に触れる芝生が少しくすぐったい
時折、優しい風が俺たちの頬を撫でた
スクッ…
タッタッタッタッタッタッ
ユサッユサユサッ…
~𝐄𝐍𝐃~












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!