「お久しぶりですね。卑巫女様」
それを聞いて彼女は優しく微笑んだ。
彼女は僕の知ってるときとは少し変わっていて、サラサラで美しい長い髪が短いショートヘアになっていた。
それでも、前世のときとは変わらない百合の花のような綺麗な顔立ち、小鳥のさえずりのような声は彼女が本物であると物語った。
「んd…ゲホッ、私達をこんn…ゲホッ、かたぢで、呼び出しt…ゲホッ、訳は?」
いつまで僕の蹴り効いてるんだよ。
ん…ん???呼び出した?
「呼び出したとはどういうことですか?」
「あd…ゲホッ、お姉ちゃん(ロキ、卑巫女)…ゴホッ、違……う……の?」
「いや、呼び出したわよ。ついでに学くんが大和だと言う情報を萌(クイーン)と黒(キング)に流したのは紛れもなく私よ。そうしたら、力を貸してもらいたい人達が全員集まるからね。」
「力を貸してもらいたい?卑巫女様ほどのお方が僕らに頼るほどの何かがあるのですか?」
「……ここで話すのは好ましくないわ…。ついて来てちょうだい。」
僕達は、卑巫女様についていった。
そして、連れてこられた場所は…アメリカの警察本拠地の奥の奥にある部屋。
そこには鉄格子の中に閉じ込められ、暴れ狂う人々がいた。
「これは…?」
「…コンピュータウィルス…刹那によって狂ってしまった人々よ。」
「刹那…1/1000000000000000000…の数か。差し詰めイチとゼロの間の世界…インターネットの世界ってところですか。」
「ええ、この狂った人々は刹那が精神に作用する画像を見せたことによって狂ってしまったの…。そして刹那は、私達にこう言っているわ。『あと1週間後に世界中の兵器を操り人々をこの世から抹殺する。』っとね。」
「…それは…民間人にも知らせるべきなのでは…?」
「…無理よ。馬鹿政府どもが私達をもっと早く頼っていれば打開策があったかもしれないけど…ここまで事が大きくなり、しかも期間があとわずか…。民間人にこのことが知られれば、反発や混乱が起こり、調査は難航するわ…。」
言われてみればそうだ。
しかし…こんなの頑張って何とかなるものじゃないだろ…。
「…もうすでに、このウィルスの元凶は掴んでいるわ。後はパスワードさえ解ければ刹那は止まる。」
「なら…僕達を呼ぶ意味は無いのでは?」
卑巫女様はそれを聞いて溜息と共に「そうだけど…」と声を漏らしながら僕に言った。
「…人はパスワードを決める時に何かしら思い入れがあるものを元にして決めるわ…でも私にはこれが理解できないの…。
刹那は実際に居た人間の人格をコピーして作られたAI…その人間の思い入れのある何かが鍵となっているのだろうけど、全くわからないわ。
入力できるのは一回のみ。
無限に近いパスワード候補の中で一つに絞り込むなんて私には到底できないわ…。
だからこそ…貴方達に頼んでいるのよ。」
「…オリジナルがいるって事か。」
「ええ。オリジナルの名前は神内 刹那。」
「なるほど…その人物についての資料をください。」
僕はこの事件に興味を持った。
いや、正確に言えば卑巫女様が解けなかった事件に興味を持った。
そこからは事件の世界に飲み込まれた。
他の人が話しかけてきても僕の耳には届かず、誰かが僕に触れても僕に認識される事は無かった。
三日の間、寝る事もご飯を食べる事も忘れて事件についての資料を読んだ。
調べ始めて三日後、僕がパスワードの候補を1つに絞ったところで僕は集中力が途切れ腹の虫が鳴った。
それを聞いて卑巫女様が料理を作って食べさせてくれた。
「パスワードの候補は絞れた見たいね。」
そう言われた時に僕は頷いた。
そして彼女の微笑みを浮かべたのを見て、僕はこのパスワードが合っていると確信した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。