照明が暗転し、 観客のざわめきが、胸を震わせる。
ステージ袖で深呼吸をする。 喉の痛みも、疲れも、 すべて今は、消える。
「……よし」
ピアノのイントロが流れ、 ステージに飛び出す瞬間、 目線は自然と、客席へ向かう。
——いるはずだ。
頭の片隅に、あの紙が残っている。
「来月のライブ、楽しみにしてる」
その文字と、あの微笑みを思い出す。
暗闇の中、探す。
何千もの目の中で、 ただ一人、見つけるためだけに。
——いた。
中央寄り、少し前の列。 髪をまとめ、顔は落ち着いているけれど、 瞳はステージを見据えている。
俺の視線を感じるかのように、 ふっと頭を上げた瞬間、 目が合う。
——あなた。
胸が高鳴る。 言葉はいらない。
その一瞬で、 俺と彼女の間に、 時間が止まったような感覚が走る。
ステージのスポットライトに包まれながら、 歌い、踊りながら、 でも視線は、ずっと彼女から離せない。
——あの時の距離も、 あの時の想いも、 全部、ここにいる。
観客の歓声が、耳を打ち消す。
でも、心の中の二人だけは、 静かに、確かに、つながっている。
曲が盛り上がり、サビに入る瞬間、 俺は小さく呟く。
「……来てくれて、ありがとう」
微かに頷く。 でも、まだ一線を引いたまま。 それでいい。
その距離感が、今の俺たちに必要だと、 ステージの上から感じる。
——今日、この瞬間を、 絶対に後悔させない。
俺は、歌い続ける。
視線はずっと、あの背中を支えるように、 光の中で、彼女を見つめ続けた。
歓声が、まだ体に響いている。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。