玲音side
今度こそ、終わる。
俺のくだらない人生が
今思えば、あの日、否定された日、全てやめてしまえば。
アイツらが俺という存在を知ることはなかったのに。
なあ、咲凪
俺はお前にずっと感謝してたよ。
だけど、同時に申し訳ないとも思ってた。
死ぬことを止めてくれてありがとう
でも、やっぱり俺は……
死ぬべき人間なんだ
ありがとう、咲凪、英舞、琴、結。
出会った順にアイツらの名前と顔を思い浮かべた。
記憶を頼りに歩いたからか、それとも建物が何一つなくなった故郷を眺めながら歩いたからか、1時間近く歩いてそこに着いた。
あの日と変わっていなかった。
柵から下を覗くと割と高い崖じゃないことに気付く。
これは死ねるのだろうか…、と今更心配になった。
だけど、どうせ落ちたら見つけてもらえるわけがないのだから、落下して死ねなかったとしても出血多量か、餓死できるだろう。
ようやく赤い液体が止まり始めた頬の傷をまた、爪でガリッと抉った。
もう俺は常人じゃないのだろう。
こんな風になってしまった俺を赦してくれ
はは、赦す相手なんていねーよ
もうどうでもいいけど。
どうせ、死ぬのだから。
眼鏡がない今、全てがぼやけて見えた。
最期に鮮明な景色が見られないのは皮肉だな、と嘲笑ってから柵に手をかける。
最期に言いたいことがあるなら、伝えられるとしたら、
アイツらに、謝りたい。
咲凪side
こりゃ逆探知を知らないな?
答えあぐねている結ちゃんの代わりにランが答えた。
風羅魏__
その言葉を聞いて、ウチは今よりずっと幼い玲音ちゃんのことを思い出す。
出会った日、死のうとしていた君。
感情が抜け落ちてしまったかのような虚ろな瞳をして、ウチと仲間になってくれた。
玲音ちゃんは本当にお母さんに会いに行ったんだ……
手紙の文面では反省しているような文章があった。
今更、胸騒ぎがする。
ここで行動に移さなければ、二度と玲音ちゃんに会えなくなるような気がした。
20分後
ウチらは列車に揺られていた。
列車に乗ったことのない3人は景色を楽しんでいる。
結ちゃんと英舞ちゃんははしゃぎ、琴葉ちゃんは無言でカメラを窓に向けていた。
実はウチだけ、列車に乗ったことがある。
それこそ玲音ちゃんの村へ行ったのは列車でだ。
ウチも景色を楽しみたいところだが、それよりも玲音ちゃんのことがよぎる。
あのときはそう思わなかったけどさ
ウチ、玲音ちゃんと結ちゃんが喧嘩したとき、どこか感動していたんだね
今更、気付いたよ
ウチと出会ったときは嬉しいのか、悲しいのか全くわからない無表情しか浮かべていなかった。
ずっと、ずっとウチは君に笑って欲しかった。自分が笑わせるんだ、ってずっと思ってた。
だけど、最初は英舞ちゃんだったね。
微かに笑った表情
嬉しかったけど…同時に悔しかったなぁ
それからは少しずつ年相応の感情を見せるようになったね。
大笑い、はにかむ、照れ笑い…
笑うだけでなく、怒る、悲しむ…それも見ることができた。
でも、まだ泣くって見たことないよ。
実はどこかで…ウチらが知らないところで泣いていたのかな?
泣いてほしいわけじゃないよ。
ただ、君の新しい表情が見たいんだ
早いはずの列車の動きが亀のように遅く見えた。
早く、早く
早く行かないと、取り返しのつかないことになるような気がしてならない。
すると、
___『ドンッ』
突如、耳に鈍い音が届いた。
そして、
___『か"は…ッ…』
苦しそうな玲音ちゃんの声
何かとてつもないことが起こったということが一瞬にして分かった。
はしゃいでいた結ちゃんと英舞ちゃんも、カメラを構えていた琴葉ちゃんも、ハッとした表情をした。
___『………らい………、よ、………………て』
途切れ途切れになる声。
聞き取れないのがもどかしい。
そこからは時々、ジ、ジ、ジジ…という音がするだけで声は聞こえなくなった。
だけど、かろうじて女性の声だと分かった。
きっと玲音ちゃんのお母さんだ。
さっきのドンッという音、
玲音ちゃんの苦しそうな声
そして、途切れ途切れだったが冷たさが感じられる女性の声
殴られた、突き飛ばされたのではないだろうか。
『手遅れになる』、英舞ちゃんがそう言うことはなかったけれど、全員が思っていることは間違いなかった。
不安は募る…だけど、
今度こそ、ウチが君を助けてみせる
次回_____『里帰り編_10.棘の先』















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!