玲音side
今度こそ、
今度こそ____
ビュオウ、と風が吹き抜け、髪が視界に入る。
柵を乗り越え、あのときと同じ、柵から手を離したらすぐ落ちる状態に。
ごめん
仲間じゃないって、友達になった覚えはないって
嘘を吐いて、ごめん
本当は
お前らが、最高の仲間でトモダチだってこと
言えなくて、ごめん
勝手に死ぬ俺を赦してくれ
いや、忘れてくれ
目を瞑り、手を離した
感覚が蘇る
身体が宙に浮く感覚
終わりだ、と感じる
ガシッ
これもあのときと同じ
腕を誰かに掴まれる
掴まれ……
何故だ、
誰に……
ああ
見上げると、あのときと同じ
あのとき、表情は見なかったがきっと同じ表情をしていただろう。
必死に、歯を食いしばって、汗を流している
でも、違うのは
何で…
こんなに、胸が熱いんだろう
目頭が熱いんだろう
同時に身体の芯が痛い
俺はコイツらに酷いことをしたのに
掴まれている両腕が千切れそうなほど痛い。
それは4人も一緒なはずなのに、誰一人として離そうとしない。
自分が死ぬ為に、俺はまた最低なことを繰り返す
自分が嫌になる
だけど、これは…コイツらの為だ
だから言葉を…
心にも無いことを言ってから、これで終わりだ、と実感した。
こんな奴、生きている価値などこれっぽっちもない
全員が息を呑む。
離してくれ、頼む…
俺のことなんて、忘れてくれ…
俺の頬に冷たくも、暖かい雫がぽつり、とまた落ちてくる
胸から湧いてくる感情を堪えきれずに、嗚咽が漏れた。
視界がぐるりと一回転して、ぼふんと背中から地面に落ちる。
痛い
これまで黙っていた咲凪が、仰向けに倒れている俺に近づいた。
頬が上気して赤い。
けれど、無表情のまま乱暴に俺を起き上がらせる。
パシン!!!
左の頬を思い切り叩かれた。
自分で抉った傷に当たり、またつー…、と血が流れたような気がする。
俺は呆然とし、琴たちは慌てて近寄ってくる。
襟元を掴まれ、柵まで引きづられる。
何をしているのか、と聞く前に
結たちの声なんて耳に入らない、というように真っ直ぐ僕だけを見つめる。
努めて明るく話す咲凪を、怒りが最高潮まで肥大した声で遮った。
「ちがう!!!!!」という怒号は俺から聞いても「ち"がう"!!!!!」という濁点だらけの言葉になっていた。
大粒の涙を溢しながら、咲凪は言った。

ヒカリ
俺が?
こんな暗く汚れた人間が?
目頭から、ぽたぽたとゆっくりと一つずつ熱いものが落ちていく。
時間が経つごとにゆっくりだったものが、絶え間なく落ちていく。
嬉し泣き…
そんなの本当に感じられたんだ…
俺なんかに…、僕に………
涙が落ちていった数だけ、複雑に絡み合って、最早解くことを諦めていた操り糸がぷつん、と切れていく感覚があった。
暗くて、汚れていて、きつく縛られていた糸が切れると、何でもできる気がした。
何重にも閉ざしていた感情の扉が鈍い音を立てて、ゆっくりと開く。
もう……………ダメだ………

心の箍が外れたように、
泣いて、泣いて、泣いて泣き喚いた。
赤ん坊のように咲凪の胸の中で泣いた。
結と琴、英舞にも抱きしめられながら。
なあ、過去の俺。
俺はさ…
コイツらに会うために産まれてきたんだよ
辛いことも……っつーか、トラウマみたいな経験しかしねぇ人生だろうけど
未来を信じろ
お前の選択、全部全部間違ってねえよ
生き抜け!…なんて言えねえけど、棘の先には希望のヒカリがある
綺麗事だよな、俺だって思う
けど、
身を持って、棘の先にヒカリがあるって思い知らされたんだよ
遠くでランが皮肉を呟く。
どこか、遠い目をして彼女たちを見ていた。
『里帰り編』__閉幕
これにて『里帰り編』、閉幕です!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!
おまけ
−過去を傍観する−
ランside
元は風羅魏という名前だった村が、玲音の故郷だということは全く知らなかった。
玲音だけじゃない。私は結も、咲凪も、琴葉も、英舞も、他の隊員たちの故郷も、過去も全く知らなかった。
結局隊を率いるだけの人間なのだから、そこまで詮索する必要はない。
ない……のだが。
人知れず、規則的な揺れの中ため息を吐く。
隣の車両には玲音の元へ急ぐ4人がいた。
なぜ私はこんなことしているのだろうか。
やることはないが、ゆっくりしていたいと思うのは人間の性だろう。
心配はしていない。あの玲音のことだ、死に急ぐことはあるかもしれないが、殺される心配はほぼゼロだ。
もう一度、4人を見る。
とても玲音のことを心配しているようには見えないほど、わいわいと一瞬で変わっている景色を眺めていた。
やがて、ピクッと全員が動きを止めて、何やら深刻そうな表情をする。
相変わらず挙動不審な彼女らを見ると、彼を思い出す。
ああ、私は何を望んでいるんだろうな。
一番挙動不審なのは、他でもない自分なのかもしれない。
遠くから、眺めていた。
死のうとする玲音、ギリギリで生命を繋ぎ止める結たち、地上に戻る、息絶え絶えでへたり込む、引きづる、引っ叩かれる、抱きしめられる。
まるで物語なような出来事だった。
幕が下りていく。長い長い上演は、ついに終幕を迎えた。
それを観客のように見ていた。
きっとこの物語は“ハッピーエンド”だ。
だとしたら、私の人間だった人生は“バッドエンド”。
つまらない、終わったことに向かって皮肉る。
それこそつまらない。
いいな
一連の上演を見て、そう最後に思ったのだ。
我ながらバカか、と思う。
何がだ、あれのどこがいいんだ?
くだらない、つまらない、出来損ないの友情物語じゃないか。
死にかけて、引っ叩かれるなんてどう考えても良くないだろ。
バカか
バカか
バカか、バカか、バカか、
バカじゃねえのか
何も良くない、羨ましくない。
_____『オレは間違ってないよ』
『一緒に逃げへん?』
「バケモノッ!!!!」
「ああああぁぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!」
何で今思い出す。
脳内にノイズが走る。
_____『お前がアイツの……!!』
『私の子供も化け物になった!!』
『アイツは逃げた。なら、唯一の生き残りの肉親__』
『お前が償え』
「がぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!!」
『いい気味だ』
『苦しめ、もっと』
『永遠に生きて、一生アイツの罪を償い続けろ』
「そん…なの…ッ…」
『ただ、一つこの呪いを解く方法があるとしたら__』
「はぁぁぁ」と大きく息を吐くと過去は遠ざかっていった。
5人を見ると、まだ互いを抱き合っていた。
そう呟けば何かが落ち着く気がして。
しばらく心の中で皮肉を並べていった。
30分後、アイツらは泣きつかれて眠ってしまった。
ずっと観察している理由もなかったのだが。
ふと、思う。
起きたとしても、誰一人としてまともに帰ってこれそうにない。
玲音は遠くから見ても怪我だらけ、そもそも思考すらまともにできなさそうだ。
それは咲凪も同じで落ち着いて考えることができるとは思えない。
たしか結、琴葉、英舞に関しては列車に乗ったのが初めてだと思う。
なら、コイツらも帰れなさそうだ。
今日一番の深く長いため息を吐いてから、彼女たちに向かって歩き出す。
まずは一番怪我が酷い玲音に近づいた。
お前、眼鏡はどうしたんだよ、とツッコミを入れてから、頬の傷を撫でる。
心配かけやがって。
いや、心配はしていない、していない。1ミリたりとも。
八つ当たりのように頬の傷をグリグリと弄った。
起きていたら『バカじゃねえのか!?』と怒鳴られるだろう。
幸い眠ったまま、顔を歪めるだけだった。
次に咲凪に近づきやたらと怪我していることに気付いた。
ああ、そうかコイツら任務でボコボコにされてるんだった。
他の3人にも目をやるとやはり傷が多い。
この傷はもう手当てしてるし、大丈夫だろう。
貼ったばかりのガーゼやら絆創膏やらの行方が知りたいところだが。
腫れた目元。
涙の跡。
傷だらけの肌。
私はお前らが羨ましいのかな
はっ、ンなわけないだろ
そして、私は救護部隊の奴らを呼び、彼女たちを運んでもらった。
その後は列車に乗って帰る。
そして眠ってしまったようだ。
夢の中で過去を見ていた
かもしれない。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。