放課後の教室。
机に突っ伏した 天馬司 が、頭を抱えていた。
「ううむ……数学とはなぜこんなにも難しいのだ……!」
ノートには大量の計算式と、途中で止まった答え。
その向かいに座るのは、楽しそうにペンを回している
神代類。
「やれやれ、司くん。まだそこまでしか進んでいないのかい?」
「ぐぬぬ……! 類! 頼む、少し教えてくれ!」
司は勢いよく立ち上がる。
「このままでは次のテストで星のように散ってしまう!!」
類はくすっと笑った。
「いいよ。教えてあげてもいい」
司の目が輝く。
「本当か!?」
「ただし条件付きだけどね」
「条件?」
類は顎に指を当て、わざとらしく考える。
「そうだな……司くんが“おねだり”をしてくれたら教えてあげよう」
「おねだり……?」
司は首をかしげる。
(どうせ司くんはこういうの苦手だからね)
(きっと顔を真っ赤にして諦めるだろう)
類は内心そう思いながら、軽く付け加えた。
「内容は……そうだね。司くんから、口にキスしてほしい」
「…………」
一瞬、教室が静まり返る。
類は心の中で笑う。
(さすがにこれは無理だろう)
しかし。
司は腕を組み、真剣な顔で考え始めた。
「……勉強のためだ」
「え?」
「役者たるもの、どんな役でもこなさねばならない!」
司はぐっと拳を握る。
「つまりこれは演技の練習でもある!!」
「ちょ、ちょっと司くん?」
司は類の前まで歩いてくる。
顔がほんのり赤い。
「……おねだり、だな」
司は少しだけ視線をそらしながら、小さな声で言う。
「……る、類……」
「うん?」
「その……キス、しても……いいか?」
普段の堂々とした司とは違う、照れた声。
さらに司はぎこちなく類の袖をちょっと引っ張った。
「その……勉強、教えてほしい……」
「…………」
類の思考が止まる。
(なにこれ可愛い)
司はさらに真面目な顔で続ける。
「だから……えっと……」
「……口にキス、させてくれ」
完全に照れながらの直球。
数秒の沈黙。
そして。
「……あ」
類は机に手をついた。
「類?」
「司くん……」
顔を押さえながら呟く。
「可愛すぎて無理」
「え?」
「尊い」
「な、何を言っている!?」
類はふらっと椅子に座り込む。
「ちょっと待って……心の準備が……」
「お、おい!? おねだりは成功したのか!?」
「成功どころじゃないよ……」
類は小さく笑った。
「司くん、勉強は全部教えてあげる」
「本当か!?」
「うん」
そしてぼそっと付け足す。
「キスは……僕の心臓が落ち着いてからにしようか」
「なぜだ!?」
「今されたら本当に倒れる」
「!?」
放課後の教室に、司の戸惑った声が響いた。
ワンダーランズ×ショウタイムの控室。
ソファに沈み込んでいる
草薙寧々。
「……もう無理」
ぽつりと呟く。
「今日の練習ハードすぎ……」
そのとき。
バァン!
「わんだほーい!!」
勢いよく飛び込んできたのは
鳳えむ。
「寧々ちゃーん!今日もいっぱいショーできて楽しかったね!」
くるっと一回転して笑うえむ。
寧々は顔だけ上げた。
「……えむ」
「なぁに?」
「ちょっと来て」
「?」
えむは素直に寧々の前に歩いていく。
次の瞬間。
ぎゅっ。
「わっ!」
寧々がえむに抱きついた。
「寧々ちゃん!?」
寧々はえむの肩に顔を埋めたまま小さく言う。
「……えむ分補給」
「えむ分?」
「うん」
ぎゅううう。
「最近忙しくて足りてない」
えむは一瞬ぽかんとしたあと、にぱっと笑った。
「じゃあいっぱい補給していいよー!」
ぎゅーっと抱き返す。
「わんだほいパワー注入ー!」
「……うるさい」
「えぇー!?」
でも寧々は離れない。
むしろ少しだけ力が強くなる。
「……でも」
「?」
「落ち着く」
えむは嬉しそうに笑う。
「えへへ!恋人だからね!」
「……うん」
そのとき控室のドアが開いた。
入ってきたのは
神代類 と
天馬司。
二人はその光景を見て止まる。
寧々はまだえむに抱きついている。
えむも満面の笑み。
類が楽しそうに言った。
「これはまた微笑ましい光景だね」
司は腕を組む。
「仲が良いのは結構だが!控室で堂々と抱きつくとはな!」
するとえむが元気に言う。
「えむセラピー中だよ!」
「えむセラピー!?」
司が驚く。
寧々がぼそっと言う。
「……恋人特権」
「そんなものがあるのか!?」
その横で類がくすっと笑う。
「司くん」
「なんだ」
「恋人特権なら、僕たちにもあるよね?」
「む?」
類はさらっと司の肩を引き寄せた。
「ちょっ……類!?」
「ほら」
ぽん、と肩に頭を乗せる。
「僕も少し司分を補給しようかな」
「な、何を言っている!!」
司は真っ赤になる。
寧々がぼそっと言う。
「……似た者カップル」
えむが笑う。
「ほんとだー!」
司が叫ぶ。
「似てない!!」
類は楽しそうに微笑んだ。
「でも司くん、逃げないね?」
「そ、それは……!」
「恋人だから?」
「ぐっ……!」
控室にはえむの明るい笑い声と、司の慌てた声が響いていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。