諸伏Side
明日はあなたの名前とデートの約束をしている。しかも、私の家で。
おうちデート、というものだ。そのために今日は現場からそのまま帰路につき、
スーパーで食材を買った後、部屋の掃除に取り掛かる。
部屋で過ごす時間が短いぶん、あまり散らかっていないとはいえ、
掃除機などもしばらくかけていなかったため、隅々まできれいにする。
食器棚に2セット、コップや食器、カトラリーがあることを確認し、
また、椅子やクッションも2人分あることを確認する。
あなたの名前の家に上がったことはあるが、
あなたの名前を家に上げたことはなかったので少し、緊張する。
♪
こんな真夜中にインターホン、いったい誰だろうか。
ドアスコープから外を除くと、銀髪で長髪で、目つきの悪い男が立っていた。明らかに、怪しい。
??「おいスコッチ、ドアを開けろ。どうやって生き延びたのか、からくりはわからねぇが、もう逃がさねぇ」
スコッチ、?一体誰の話だろうか。
??「開けないというならば、無理やりこじ開けようか」
謎の男がそういうと、家のドアが、開いてしまった。
??「久方ぶりだなァ、スコッチ。俺は、ネズミのことは絶対に許さない。おい、ウォッカ」
??「はい、兄貴。コイツを」
ドアスコープからは見えなかったけれど、もう1人男がいたようで、ウォッカといわれたこの男は
サングラスをかけていた。また、夜の闇に溶け込むような、真っ黒の服を2人とも着ていた。
??「これは組織が新しく開発した薬。これもまた、シェリーのつくったAPTX4869と同じく、完全犯罪が可能な毒薬だ」
そういった男は、試験管たっぷりに入った水と、その薬を私の口元に近づける。
諸伏「待ってください、スコッチって、なんの話ですか。おそらく人違いかと...!」
??「白を切るな!公安のネズミが......」
公安のネズミ....まさか、景光が潜入していた組織の......
諸伏「私は公安所属の人間ではありません。おそらく、君たちが言うスコッチ、というのは、私の弟かと」
スコッチ、私の弟は、そう呼ばれていた.....のか。そして、この人たちが、景光を......
??「そんな怖い顔をしながらも、無理のある嘘をつくというのか」
諸伏「嘘ではありません、から、やめっ」
しかし、抵抗むなしく、薬を飲まされる。体に強い衝撃が走ったのち、私は意識を失った。
あなたの名字Side
今日は高明さんの家でデートをする、という約束をしている。
高明さんの家、絶対にきれいだし、おしゃれそうだし、ものすごく、緊張する。
なんだかんだ、高明さんの家にお邪魔したことはなかったので、家の場所も知らなかった。
一昨日、メールに送られてきた住所を頼りに、家へ向かう。
いつもよりもきれいめな服装で、これなら大丈夫だろうと信じながら。
♪
インターホンを押して十数秒、返事はない。ちょうどお手洗いに行ってたりでもするのだろうか。
♪
もう一度、3分くらい経ってからインターホンを押す。しかし、反応はない。
ドアに手をかけると、鍵がかかっていないようで、いけないことかもしれない、と思いつつ
ドアを開ける。
あなたの名字「高明さん......?います、か?」
そういってドアを開けるが、人のいる気配はしなかった。しかし、足元を見ると
猫伏「にゃ!?」
目のきれいな、少し青みがかったグレーの、
猫がいた。
あなたの名字「え!?猫!?でも、高明さん、そんな話、したことないよね、え?ね、猫?なんで?」
猫伏「にゃ、にゃー!!」
私の言葉に反応したのかわからないけれど、猫がこっちに寄ってきて、私の足元でぴょんぴょんはねながら
何かを訴えかけていた。
あなたの名字「どうしたの?猫ちゃん」
猫伏「にゃにゃにゃ......」
あなたの名字「うーん、話しかけてくれてるんだろうってのはわかるんだけど、なんて言ってるのかはさっぱり...ごめん」
猫伏「.........」
私がそういうと、猫ちゃんはすたすたと家の中に歩いて行った。まるで、ついてこいとでも言わんばかりに。
あなたの名字「どうしたの.....?ここは君の家?」
猫伏「にゃにゃ」
あなたの名字「って、聞いてもわかんないか」
家に上がると、掃除機がしっかりかかっていて、床にはほこり1つすらなかった。
しかし、机のふもとに、少し拙くたたまれた、昨日高明さんが来ていたスーツが落ちていた。
あなたの名字「あれ、高明さん、こうやって脱ぎっぱなしにする人じゃないと思うんだけど....」
それに、こんなにきれいということは、昨日掃除機をかける余裕はあった、ということ。
なのにもかかわらず、こうして服が収納されていないのはなぜだろうか。
キッチンに行くとパスタが置いてあった。それも2人前。
夕飯に食べようとしたわけじゃないのだろう。ということは今日の準備、だろうか?
猫伏「にゃにゃにゃ~......」
あなたの名字「ごめんね、今日本当はここの家に住んでいる高明さんって人と約束があってきたんだけど、見当たらなくて。でも君の言ってることわかんないから.....」
そういって私は猫ちゃんを抱え上げる。その猫の顔を見つめていると、どこか高明さんの雰囲気を感じた。
猫とか、ペットって飼い主に似るっていうから、やはり高明さんの猫なのだろうか......?
あなたの名字「君は高明さんの猫ちゃん?」
猫伏「にゃにゃにゃっ」
あなたの名字「うーん、高明さんが行方不明なのも不安だし、よくわかんない猫ちゃんもいるし....あ、連絡してみるか!」
電話にも......でない.....。まさか、前の由衣ちゃんのときのように、誘拐....されてたり!?
高明さんがそんな、誰かにさらわれたりってのは考えにくいけど、でももし本当に.....!!
猫伏「にゃにゃにゃにゃ!!」
あなたの名字「な、なに?猫ちゃん、今結構、高明さんが見当たらなくて、ほんとに、どうしようって.....」
猫伏「にゃにゃにゃ!!」
あなたの名字「ごめん、ほんとうに、ごめん!!」
諸伏Side
そういうと、彼女は泣きそうな顔で私の頭を、撫でた。
そんなこと、されたこともなかったから、少しドキッとしてしまう。
それに、普段敬語で話す彼女が、ため口で話しかけてくることにもまた。
しかし、一体どうしようか。
私は長野県警所属、諸伏高明。
彼女であるあなたの名前を家に上げる準備をしていたところ
黒ずくめの男の怪しげな訪問にあった。
死んだ弟の仇が目の前にいる状態で冷静さが欠けていた私は
男の抵抗にあらがうことができなかった。
私はその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら......
何故か猫になっていた、というわけだ。
さかのぼること3時間前。
猫伏「にゃにゃにゃ!?」
おそらく昨日飲まされた毒薬のせいだろうが......。今日、あなたの名前が家に来る。
その場合、私がいないとなって騒ぎになるかもしれない。
猫を飼ってるわけでもないのに猫がいる、と不審がられるかもしれない。
どうしようか......。
まずはいったん、敢助くんに協力をしてもらおう。
幸い、スマートフォンは使えそうだったので、メールを送る。
to大和 敢助
頼み事です
もしもあなたの名字に、県警に私がいるか聞かれたら、いる、今日は泊まり込みらしいと伝えてください。
やましいことがあるわけではないのですが、少し立て込んだ用事がありまして、
しかし心配はかけたくないのです。
これで、大丈夫だろうか。
そして今、あなたの名前のことをこれ以上なく困らせている。
私があの時、景光の話に動揺しなければ、冷静さを保てたら、
こうはならなかったというのに.....
あなたの名字「あっ、県警なら何か知ってるかも!」
猫伏「にゃにゃ~!!」
あなたの名字「今から大切な電話するから、静かにしててね」
猫伏「にゃにゃ」
♪
あなたの名字「あっ、大和警部!高明さんって、そちらに今いますでしょうか?」
大和「ん?あ、ああ。高明なら、ここに。今日は泊まりこみだっていってたが、なんか用か?」
あなたの名字「いや、家に姿がなくて心配で。でも急に仕事は言ったなら連絡の一つくらいくれてもいいのに.....」
大和「承知しました。.....すまねぇ、俺も仕事だ。またなんかあったら連絡しろ」
あなたの名字「は、はい!すみません、ご迷惑をおかけしました」
あなたの名字「ひとまず、よかった.....けど連絡してほしかったなぁ.....」
猫伏「にゃにゃにゃ」
あなたの名字「そんな悲しそうな顔しないで。君はなんも悪くないから。このまま高明さんの家にいるのも悪いし、帰るか。でも、鍵がな.....」
予備の鍵なら、リビングの奥のこのあたりに.....
あなたの名字「わっ、急にどうしたの?私の家来るのは嫌?」
猫伏「にゃにゃ」
あなたの名字「これは.....予備の鍵?これで鍵閉めて帰ろうってこと.....?」
猫伏「にゃ」
あなたの名字「わかった。じゃあそうしようか」
私はそのまま、あなたの名前に抱きかかえられたまま、あなたの名前の家へ連行された。
普段よりもきれいなコーディネートで、私の家にこんな印象を持っていたのかと驚きつつもうれしさを覚える。
また、抱きかかえられる、なんて人間の状態では絶対に不可能なことが起きていて
嬉しいような、けれど困惑が勝つような、そんな気持ちだった。
あなたの名字Side
いったん連れて帰ってきてしまったけど.....どうしよう.....。
あなたの名字「結局君の飼い主は高明さん?」
猫伏「にゃにゃ.....」
あなたの名字「うーん、私の言葉はわかってそうなんだよな。コミュニケーション用のなんかつくろうか。こっちの紙に〇、こっちには✕を書いて......よし、猫ちゃん、私の言葉はわかる?」
猫伏「にゃ」
あなたの名字「〇.....賢い猫ちゃんだね。偉いぞ~」
小動物とかかわる機会なんてなかったから、ついかわいくてわしゃわしゃと撫でてしまう。
あなたの名字「えーっとじゃあ、君は野良猫...?」
猫伏「にゃ......?」
どっちだろう、と言わんばかりに悩んだ挙句、2枚の紙の真ん中に移動した。
あなたの名字「どちらともいえないってこと?」
そう聞くと猫ちゃんは〇の紙に移動する。
うーん、なんなんだ、この猫は。野生だけど高明さんがかわいがるから野生とは言い切れない...みたいな?
にしても、猫と会話できるってすごいことなのでは.....?
その後も私は猫ちゃんとしゃべったり、お昼寝をしたり、
猫のおやつである某ちゅ~〇を買いに行ったり(食べてもらえなかったけど。
なんなら私のお昼ご飯のパスタを3本くらいつまんでたけど。大丈夫なのか.....?)
そんなこんなで、猫ちゃんと話しているとあっという間に1日が終わった。
なんだか高明さんの雰囲気を感じる猫ちゃんといると、高明さんといる気分になって、楽しかった。
あなたの名字「もう夜だけど、一緒に寝るかい?猫ちゃん」
私がそういうと、猫ちゃんは驚いた顔して逃げていく。
あなたの名字「え?嫌なの?」
そう問いかけると猫ちゃんは立ち止まって、首を横に振る。
あなたの名字「じゃあいいじゃない。一緒に寝よ?」
しかし、そういうとまた猫ちゃんは首を横に振る。
うーん。でも猫と同じ布団で寝てみたい。
よし、捕まえよう。
あなたの名字「よっと、猫ちゃん捕獲!一緒に寝よ?」
私はそうして、高明さんに似た猫ちゃんを抱きしめながら眠りについた。
あなたの名字「ふぁぁぁ、おはよう、猫ちゃ....ええええぇ!?た、高明さん!?」
私が目を覚ますと、昨日まで猫ちゃんがいたはずの私の腕の中には、高明さんがいた。
諸伏「あなたの名前.....おはようございます。よかった、戻っていて....いや、この場合、よくなかったかもしれません。すみません、離れましょう、か?」
かなり焦っている様子でそういう高明さんは珍しくて、まだ見てたいなって思ったから
あなたの名字「嫌です、せっかくなので、もう少し」
なんて言ってみる。すごい、恥ずかしいけど、でも付き合ってるわけだし、セーフ....だよね?
それに、よいか悪いかはわからないが、私は高明さんに後ろから抱き着いていて、互いに顔は見えないから
多分、大丈夫。
諸伏「その、昨日はご迷惑をおかけしました」
あなたの名字「これからは、急に仕事が入ったら連絡してくださいね?というか、なんでここに...泊まり込みなんじゃ.....」
諸伏「いや、その、色々ありまして。話しても信じてもらえないでしょうから」
あなたの名字「聞くだけ聞きます。なにがあったんですか」
諸伏「その、私、昨日猫になってまして」
あなたの名字「高明さん、今日は休みましょう?寝た方がいいですよ」
諸伏「そう言われますよね、でも、本当なんです」
あなたの名字「じゃあ、昨日パスタを美味しそうに食べてたあの猫ちゃんは高明さん自身だったってこと...ですか?」
諸伏「そうです」
あなたの名字「わ、私、すごいいっぱい抱き着いたり撫でたり...それにため口で!!」
諸伏「大丈夫ですよ、少し、ドキドキはしましたが。ただただおうちデートをするのでは味わえないドキドキでしたから.....」
あなたの名字「なんか、思い返したら恥ずかしくなったのでやめます。ほ、ほら、今日は非番じゃありませんから、支度しましょう?」
諸伏「あ、そういえば服.....着てる!?猫になったときは服が脱げてしまったのに.....」
あなたの名字「あ、それで服が机の足元に」
諸伏「はい、猫の身体だときれいにたたむのも難しくて.....」
あなたの名字「でもよかったです、服、あって」
諸伏「ほんとです。すみません、ご迷惑を」
あなたの名字「いや、たまにはこんな、非現実的なハプニングがあってもいいかなって...あ、遅刻する!!支度、するんで。あ、鍵返さなきゃですよね!これ.....」
諸伏「あ、いや、持ってていいですよ」
あなたの名字「え?」
諸伏「いつでもうちに来てください。基本片付いていますから」
あなたの名字「でも、この鍵ないと帰れないんじゃ.....」
諸伏「あ、いえ、自分の分は持ってるので、帰れますよ」
あなたの名字「でも、本当にいいんですか?」
諸伏「はい、彼女、ですから。どうぞ....」
あなたの名字「ありがとうございます.....。じゃ、じゃあまた後で、県警でお会いしましょう!」
諸伏「そう、ですね!すみません、お邪魔しました」
あなたの名字「いえ、それでは、また.....」
後日談#9 猫になっちゃった話 完













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!