昼休み前、給食の時間。配膳台に並ぶクラスメイトの列。
タクヤはいつものように、自分の牛乳だけを静かに断って、水筒のお茶を持って席に戻った。
でもそのとき、後ろから聞こえてきた声。
「なあ、タクヤ」
隣の席の男子が、牛乳瓶を片手に、ふいに声をかけてきた。
「いつも牛乳飲んでないよな?」
タクヤ「……うん。アレルギー、だから」
タクヤは、ちょっと目を伏せながら答えた。
「なにそれ〜どうせ嫌いなだけだろ!」
男子の声が少し大きくなって、近くの数人がこっちを見た。
タクヤ「ちがう……飲んだら、苦しくなったりするから……」
言いながら、自分の声がどんどん小さくなるのがわかった。
「うちの弟も牛乳キライだけど、飲んでるよ?」
「なんで飲まないの? ずるくない?」
小さな笑い声が机のまわりに広がった。
その瞬間、カッと立ち上がったのはユーキだった。
ユーキ「やめなよ。タクヤはアレルギーってお医者さんに言われてるんだよ。飲んだら具合悪くなるんだってば」
その声は強くはなかったけど、真っ直ぐだった。
「ユーキうるさい。ちょっといじっただけじゃん」
「てか牛乳飲んだだけで具合悪くなるとかださ笑」
ユーキ「タクヤが悪いんじゃない」
ユーキの目が、みんなを真っすぐ見ていた。
その空気に、笑っていた子たちは少しずつ黙っていった。
タクヤは、何も言えなかった。
嬉しかったのに、喉に何かが詰まったように、何も声が出てこなかった。
その日の給食の味は、まったく覚えていない。
水筒のお茶を飲むのもなんだか怖くて、手が止まった。
________
放課後。
ランドセルを背負って青空の家に帰ると、タクヤはすぐに自分の部屋にこもった。
宿題もそこそこに、机に突っ伏して動かなかった。
リビングからは、タカシの元気な声と、テレビの音が聞こえる。
でも、その世界がすごく遠くに感じた。
その夜、夕食の時間になっても、タクヤの箸は進まなかった。
カイが卵焼きをすすめても、首を横に振っただけ。
お風呂に入っても、布団に入っても、胸の奥のモヤモヤは消えなかった。
⸻
夜、廊下の音に気づいて目を開けると、ドアの隙間からやわらかい灯りが差し込んでいた。
カイ「タクヤ、起きてる?」
タクヤ「……うん」
ドアが静かに開いて、カイがそばに来た。
カイ「今日、元気なかったけど……なにかあった?」
タクヤは、すこしだけ顔を背けた。
タクヤ「……べつに」
カイ「……ユーキが、少し話してくれたよ。給食のときのこと」
タクヤの背中がぴくっと動いた。
タクヤ「……おれ、バカにされた」
声が震えていた。
タクヤ「なんでみんな、わかってくれないの……」
タクヤ「アレルギーって言っても、どうせ嫌いなだけだろって……。牛乳も飲めないって、俺やっぱり弱いのかな…」
その言葉に、カイはすぐに首を振った。
カイ「違うよ。タクヤは悪くない。アレルギーっていうのは、身体を守るために大事なことなんだよ。無理して飲んだら、倒れちゃうことだってある」
タクヤ「……でも、みんな笑ってくる」
タクヤは小さな声で続けた。
タクヤ「俺、頑張って説明もしたのに……。もう、いやだ」
カイ「タクヤ……」
カイはそっと、タクヤの頭を撫でた。
カイ「アレルギーってね、外から見えないから、理解されにくいんだよ。でも、それはタクヤのせいじゃない。わからない人が、まだいるだけ」
タクヤ「でも、言っても、また笑われるかも……」
カイ「うん。それが怖いのも、すごくよくわかるよ」
カイは、静かに続けた。
カイ「でも、今日のユーキみたいに、ちゃんとわかってくれる人もいる。俺も、リョウガも、タカシも。……タクヤのこと、大事だと思ってる」
タクヤの目から、ぽろっと涙が落ちた。
タクヤ「……カイ、なんでそんなにやさしいの?」
カイ「うーん……タクヤが、がんばってるの、知ってるからかな」
その言葉に、タクヤは目をぎゅっと閉じた。
タクヤ「……もうすこし、だけ……ここにいて」
カイ「うん、いるよ」
カイは布団の上に座って、タクヤの背中をやさしくなで続けた。
静かな夜のなかで、タクヤの心の傷が、すこしずつ癒えていくようだった。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。