「はっ、タマ!」あいつの声が聞こえたような気がし目を覚ます、んなわけないか…(ふっ)
そのとき、ピカッと自分の玉が光りを放ち。
薮が、話し掛けて来てよ。
(はあっ?キスマイ全員行方不明って、どういう事だよ)
(ってことは、まさか皆こっちに?ニカがいるって事はあり得ない話じゃない)
(あとの連中は?)
(そっか、あの2人)
(あぁ、大体の想像はつくメシでも一緒に食ってたんだろ)
(って事は、みんな同じ日に)
ガタッ!
が、そのとき何やら物音がし。
(二階堂?やっべ薮と話してて、あいつの事すっかり忘れてた)
そう言うと慌てて後を追う、月の光りを浴びて見える彼奴の後ろ姿を。
(何を手にしているんだろ?はっ、村雨丸!?そんなのを持ち出しどうするつもりだ)
昔から夜道が苦手だったニカが、こんな時間に抜け出すだなんて思ってもみなかった俺は驚いてしまい暫くしピタッとその足が止まって。
(ここは?)
それは小さな丘で、ニカはヘタリ込むように座ると俯き。
(何をやっているんだ?)
そおーっと気づかれないよう俺はそばへと近づく、すると。
(泣いているの?)
そう言って隣に座ったら。
その物凄い形相が心に突き刺さる「違う」そう言ってやりたい。
(が、今のおまえ俺の言葉を素直に受け入れるか?
なぁ~どうしたらその心を癒すことが出来る?もう一度、あの頃のように呼ばれたいミツって)
月の光りが俺達2人を見守るように照らしていた、その中で震えている二カを黙って俺は見つめながら時が経つのを待ち続ける。
心の扉が開くまで…
そしてどのくらい経ったのか?静かに風が吹き始めニカは、ふと空を見上げ。
(ニカが笑った…ふっ、良かった)
優しく風が、頬を撫でる。
そう言うとトントンとニカの胸を軽く叩く、すると。
泣きながらニカは笑い俺も嬉しくて、その横っ腹を突っついたり頭をクシャクシャに撫でジャレまくる。
そうやって俺達は、まるで以前に戻ったかのように束の間のときを過ごす。
俺の言葉に物凄い勢いで走り出すニカを追い掛ける俺、だが来るときとは違う想いが確かに2人を包み込んでいた。
(あのとき風が吹いたから、あいつは素直になれたのかもしれないな)
ふと、そう思い足を止め空を見上げる。
その声の先には前より少し元気になったニカが笑顔で手を振っていて。
が、そのとき俺はいや俺達はそこにもう1人いた事に気づいていなかったんだ。それを後になって知る風と一緒に月夜に浮かんだ人影を…
そいつの眼に俺達は、どんなふうに見えていたのか。
風が、そよそよとニカの心をそいつの元へ届けた。
ざわざわ、ざわっ…
ざわっ…
ざわざわっ…
ふわっ…
だけど…
「独り…か」そう呟いた言葉は俺達の耳に聞こえてはいなかった遠い眼をし過去を振り返っていたことも、それはある人との出会いと別れ。
徐々に自分の手の中で冷たくなっていく身体を抱きしめ。
それからずっと、風に見守られ過ごして来たことを教えてくれたのが犬江という侍だった。
そう後になって聞く…狩りに来たというその人は、ひと目みるなり「親兵衛」そう呼んだらしい。
生き別れになった息子によく似ていたからと、それから一緒に過ごす時が増えていき。
いきなり言われたときにはビックリしたと風に気に入られているとはどういう意味なんだろうって。
けど戸惑っている自分に「心配するな何があっても風がお前の力となり護ってくれるはずだ」
優しい眼差しで、勇気づけてくれ。
風使いー
いつの頃からかそう呼ばれるようになった、そいつとの再会はもっと先の話し。
この戦国の世で、誰が命を落としてもおかしくない時代に山下定包の家臣だった犬江という侍はその命の炎を自ら消し去ってしまう。
里見義実と戦って死んだ主君の後を追い…
それは俺にも分からない、けど「その時代」その時に生きる人にとって大切な物があるのは確かで例え理解できなくとも、みな精一杯生きている。
そうだろ?永瀬廉
お前に会った時そこにいた全員が声も出ないほどに驚いた、まさかこっちへ来ているだなんて思いもしなかったから。
それからニカは、この世界に来てから俺に会うまでのことを話して聞かせてくれ。
それは、自分と同じ玉。
ピカッ!
と、そのときニカの玉が光りを放ちそれに連動するかのように自分のも浮かび上がった文字は【義】
突然のことに、驚きの声を上げるニカ。
目が点になっているニカを後目に俺は取り急ぎ薮にコンタクトを取る。
薮が叫ぶと聞きなれた声で「すみませ~ん僕のでーす」そう返す言葉が聞こえ。
(あれ?)
(あぁ、ばっちり)
(ダメだ、こりゃ)
そんな俺らの会話を唖然とし聞いているニカ。
そのハットを通しニカに話し掛けてくれたら、もしかすると自分のときみたいに記憶が戻るかもしれない「だから、頼む」
俺は祈るような気持ちで時を待ち、数分後。
話ができるのは光っている時だけ、だから俺は焦っていた。
いつ止まってしまうか分からなかったから。
(俺も心配をかけているんだよな)
宮近の言葉から、その名前が出たとたんズキンと心が痛む。
と、そのときニカの瞳から涙が溢れ出し。
(はっ、もしかして)
思わず息を飲み込み俺は見つめた、その潤んだ瞳を。しかし…
こいつの記憶は、戻らなかったんだ。
宮近は、これからも話し掛けてくれると約束してくれたけど。
(もしかしたらニカの記憶は千賀じゃなきゃダメなのかもしれない、とはいっても彼奴も今は行方不明…とどのつまり自分たちで捜すしかないってことか)
捜すと言えば、俺は確かに自分という存在の記憶を取り戻しはしたが全てを思い出したわけではなく
肝心な部分が抜けていた。
どうしてここにいるのか?ということが。
それを思い出さなければ俺達は、元の世界へ戻ることができないような気がしていたんだ。
それから、朝になって次の村へ移動するため街道へ出て暫く進むと。
あの時みたいに、人だかりが出来ている所に出くわし。
よく見ると僧呂の格好をした奴が火の中へ入ろうとしていて、その姿に集まった人々が次から次へ銭を投げつけている。
(あんな所へ飛び込んで平気だったら、あいつ化けもんだ)
俺は、その顔を見ようともせずその場を離れてしまう。
しかし後日、俺達は思わぬ形でその僧侶と再会する事となる。
「きっと何か意味があるんだ今こうしている事に」そう思ったのは、そいつと再び出会ったときだった。
まるで運命に導かれるかの如くにー
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。