春が近づいてきたというのに、江戸には雪がちらついていた。
お桃は伊勢屋の塾でお千代の手伝いをした帰りだ。
家に帰ると、お鷹の姿は見えなかった。
家の裏や周りまで隅々と探した。
しかし、見つからなかった。
他の人に聞きに行こうと歩き出したその時、ばったりと誠之助と出会った。
誠之助とともに、お鷹の行方を聞きに行ったが、誰一人として知っているものはいなかった。
結局、お鷹が帰ってくることはなかった。
次の日。
寺子屋に向かう途中、誠之助とあった。
お勝は顔はきれいだったが声が低く、声だけ聞けば男のようだった。
その日は特に何事もなく仕事をこなした。
しかし、ある一人の少年の答案を確認した時だ。
そろばんを文机に叩きつけた。
音を立てて五の珠が落ちる。それを見た時だ。
ふっと、何かを思いついた。
その日の夜。
昨日と同じように自分の分だけの食事を作り、食べ、そして寝た。
朝起きると、お鷹が何食わぬ顔で座って、お茶を飲んでいた。
お桃は自分が考えたことを、お鷹に語った。
いつの間にか、お千代がいた。
お桃とお鷹は考えたことを全て、お千代に語った。
そして三人は、それぞれの仕事に入った。
そして、夜になった。お桃は仮名手本と紙、墨壺、そして筆を持ってその「本人」のところに向かった。
仮名手本を見せる。
お米の顔にかすかな動揺が見られた。
お米とお勝と、紙にひらがなで書く。
仮名手本を開く。
お勝の声はどんどん低くなっていく。
おそらく、岸やの一家を惨殺した際は男装でもしたのだろう。このように、低い声で。
お勝は懐剣を手に、誠之助の喉元に振りかぶった。
そして刃が誠之助の喉に当たるか当たらないかというところまでいった。
そう思った瞬間、お鷹のひらめくような手刀がお勝の手首を打った。
お鷹の射抜くような視線が、より一層鋭さと冷たさを増したような気がした。
お鷹はお勝の腕を掴み、きりきりとねじ上げた。
不意に誠之助が、お勝の鳩尾に蹴りを入れた。
ドサリと音を立てて、お勝が倒れた。
すべては終わった。それだけのことだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!