・・・・・・まるで死刑までの時間を有意義に過ごせと言われたような感じがするのは、私の気のせいではないと思う
由紀先生が指示を出したあと、蜘蛛の子を散らすように、生徒たちは一斉にその場から逃走した
エントランスに残っているのは、出遅れた十数人のみで、班の子たちとどこへ行くか迷っているようだった
比較的、由紀先生の指示に耐性がついているらしい・・・・・・
まあ、私も1年間は先生と一緒にいたわけだけど、そんな簡単に耐性はつかなかった
花恋は自分を指で指しながら苦笑いする
そっか。そういえば花恋は頭がいい代わりに運動が苦手だったっけ
・・・・・・私は逆なんだよね。勉強は苦手です
にこっと笑いながら言うと、花恋も柔らかい笑みを返してくれる
でも、いつまでも花恋の優しさに甘える訳にはいかない
だからちゃんと、迷惑をかけないようにしないとね
やたらとハイテンションな声とともに、樹里と葵がふらっと後ろから現れる
クラス毎に二列で並んでたんだけど、私たちは前の方、2人は後ろの方にいたのだろう
小走りでこちらまで来た葵たちと合流し、立ったまま輪になった
・・・・・・今更だけど、葵の私服姿ってあまり見ることないから新鮮かも。樹里は小さい頃から遊んでたし、家も隣だったからよく見かけてたけど
花恋とはいつも遊んでるから、この中じゃ葵だけ、私服を見てなかったんだなぁ
グレーのTシャツの上に、春らしい桜色のパーカー。下は濃紺のズボンできっちり締まっている
樹里は樹里で、シンプルな白Tシャツの上からデニムシャツを羽織り、同じく黒のズボンを着ていて、これがまた憎たらしいほどに似合っているのだ
本当にこの3人は、なんでも着こなせそうな雰囲気がある。というか現実に着こなしている
うーん、流石ですね
・・・・・・・・・・・・・・そういえば、2人共何も言ってこないね。昨日のこと
葵にはとりあえず、ありがとうって言わなきゃなあ
うう、今思い出しても恥ずかしい・・・・・・
花恋はポケットからスマホを取り出し、指で操作を始めた
合宿前にちらりとネットで地図を見たけど、周りにあるものと言えばショッピングモールくらいなものだった
行動範囲は定められてない。ただ、学生として相応しくない場所や、常識の範疇を超えて遠い場所には行っちゃダメ。それ以外なら自由。先生たちも巡回するし、時折班長に電話をかけて確認をするとか
ほんっと、これ合宿?
でも、だからこそ、1年生じゃなくて2年生で行くのかもね
あ、ちなみに私たちの班長は樹里。まあ妥当だよね
スマホから視線を話さずに、花恋は私たち聞こえるくらいの声量で呟いた
一応、建前としては合宿だしね。遊ぶのはいいけど、買い物は極力禁止。内容は旅行みたいなんだけど、変なとこで制限されてる
心配げに私を見る葵に、笑いながら答える
ほっと息をつき、葵は「他には大丈夫か?」と更に尋ねた
そこまで言いかけて、はっと思い出す
きっ、昨日・・・・・・・私、葵の前で泣いたんだった!
わんわん子供みたいに泣いて、そのあと無様にも寝てしまった
急に恥ずかしさが込み上げてきて、顔が紅くなっていくのを鮮明に感じる
それを隠すように、慌ててばっと下を向く
動揺と焦りを心の中に押し込め、私ははぐらかすために花恋に話しかける
事情を知る花恋は、急に私の態度が変わった理由を察して、2人に「一旦外に出よ?」と促してくれた
花恋から強引に背中をぐいぐいと押され、訝しげに歩く樹里と、どこか寂しそうな空気を纏った背中を向け、2人を追いかけるように歩を進める葵
こっ、これはもしかしてチャンス?!
2人きりになれる時間って、今しかないのでは?
そう思って、徐々に遠ざかっていく葵を追いかけ、足を動かそうとした
けれど、私の意思とは裏腹に、全く動こうとしない
葵の元へ駆け寄るのを拒否しているみたいに
そうしている間も、葵は止まることはなく、距離は開く一方
今を逃せば、葵に謝る機会は無い
なのに、どうしてか足は、前に進むことはない
花恋が作ってくれたチャンスなのに・・・・・・!
必死に歩きだそうと、脳内でもがいていると、ふと前を歩く葵が止まった
それに気づいた直後、くるりと葵は、上半身をひねってこちらを振り向いた
たったそれだけなのに、何故か私は、葵が私を見てくれたことに嬉しさを感じてしまう
その理由は分からない。ただ、葵の瞳に映るものが、私だけであることが、言葉にならないほど嬉しかった
なんで行かないのか、とかそう聞かれるのだろうと、特に疑問を持たずに聞き返す
一拍の間を置いて、葵は一度閉じた口を再び開く
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。